欧米を揺るがす「インテレクチュアル・ダークウェブ」のヤバい存在感

「反リベラル」の言論人ネットワーク
木澤 佐登志 プロフィール

このリークされた文書は当然ながら強い非難を浴び、結果ダモアはグーグルから解雇されている。しかし、I.D.Wの一人である女性サイエンスライターのデボラ・ソー(Debra Soh)は、科学的見地からダモアの文書を擁護する文章を発表している。同様に、ジョーダン・ピーターソンもダモアを公の場で擁護する発言をしている。

アカデミアからの「イグジット」

とはいえ、もちろんこうしたスタンスは、自身の社会的立場を危うくすることにも容易に繋がる。たとえば、デボラ・ソーは神経心理学の分野で博士号を取得しているが、アカデミズムの領域からみずからイグジット(EXIT)することを選択している。

アカデミズムは、彼女のような研究者に対してあまりにも狭量だからだという。「もしあなたの研究成果が公衆に気に入られなければ、あなたは職を失うかもしれない」とデボラは前述のニューヨーク・タイムズの記事で述べている。

デボラは2015年にも「トランスジェンダーの幼児に性転換手術を受けさせるべきではない」という内容の記事を書いており、性差別的であるといった批判が向けられていた。彼女は現在、雑誌『プレイボーイ』で性科学に関する連載を持つなど、フリーランスのライターとして活動している。

ジョーダン・ピーターソンはトロント大学で心理学を教えているが、2016年にカナダの人権法改正案(Bill C-16)に対して公然と異を唱えたことで逆境に立たされた。この改正案は、ジェンダーに関する差別を禁止するという内容を含んでおり、ピーターソンは「言論の自由」を擁護する立場からこの法案に反対した。大学側はピーターソンを何とか黙らせようとしたが、彼は抗った。キャンパスでは彼に対するデモまで発生した。

ジョーダン・ピーターソン氏〔PHOTO〕Gettyimages

ネットを活用して聴衆を集める

これらはI.D.Wが立たされている逆境の一部に過ぎない。彼らの多くがアカデミズムから「異端」もしくは「背教者」の烙印を押され、そのうちの何人か(たとえば前出のワインスタインもその一人)は実際にアカデミズムの世界からのディアスポラ(離散)を余儀なくされている。

だがその代わり、彼らはポッドキャストやユーチューブなどを活用することで、自分たちの言論を発信するための独自の回路を形成している。そして事実、それらは大学の教室よりも多くの聴衆を得ることに成功している。

このトランプ政権時代に生まれた新しい知的動向は、リベラルが警戒するように危険な因子を含んでいることも確かである。そのことは、I.D.Wがいわゆるオルタナ右翼のネットワークとも近傍する位置に存在しているという事実からも伺える。

 

たとえば、I.D.Wと近い位置にいるアフリカ系アメリカ人女性の論客キャンディス・オーウェンズ(Candace Owens)は、過激なトランプ支持者として知られる。彼女は2016年頃まで保守派やトランプを批判するウェブサイトを運営していたが、突如180度方向を転換、みずから「黒人保守」を自認するようになる。

「レッドピル・ブラック」という旗印のもと、ユーチューブに「民主党の植民地から脱出する方法」、「左翼は黒人を馬鹿だと考えている」といった挑発的なタイトルの動画を数多く投稿し、精力的にリベラル叩きを行っている。

他方で、I.D.Wがホストを務めるポッドキャストやユーチューブの討論番組では、しばしばオルタナ右翼や陰謀論者と見なされている論客――ステファン・モリンウー(Stefan Molyneux)、マイロ・ヤノプルス(Milo Yiannopoulos)、アレックス・ジョーンズ(Alex Jones)などがゲストとして呼ばれている。