欧米を揺るがす「インテレクチュアル・ダークウェブ」のヤバい存在感

「反リベラル」の言論人ネットワーク
木澤 佐登志 プロフィール

ピーター・ティールとの関係?

I.D.Wは実に多彩な顔ぶれから成る。イスラムに関する発言で物議を醸している在野の神経科学者サム・ハリス(Sam Harris)、政治コメンテーターのデイヴ・ルービン(Dave Rubin)、進化生物学者のブレット・ワインスタイン(Bret Weinstein)、フェミニスト論客のクリスティーナ・ホフ・サマーズ(Christina Hoff Sommers)、そして心理学者で自己啓発書の著述家としても知られるジョーダン・ピーターソン(Jordan Peterson)等々……。

政治的傾向に共通性はなく、保守を自認するものから民主党支持者まで幅広い。ジェンダーや人種に関しても同様で、女性やアフリカ系アメリカンの論客もこのネットワークに参加している。

インテレクチュアル・ダークウェブの発端ともいえる出来事は、2017年9月、前出のブレット・ワインスタインが当時勤めていた米エバーグリーン州立大学を辞任した事件にまで遡る。

 

ワインスタインはキャンパスにおけるデイ・オブ・アブセンスと呼ばれるイベントーーカラードの学生と教員が人種問題について話し合うために白人学生の登校を一日だけ制限する行事ーーに反対していた。このことが原因で、キャンパスではワインスタインをレイシストであると非難する学生らによる大規模な抗議運動や脅迫が行われ、結果的にこの騒動がワインスタインのアカデミズム生命を終わらせることになった。

この事件を受けて、ワインスタインの兄弟で、またペイパル創業者のピーター・ティールが設立した投資会社ティール・キャピタルの常務取締役を務めると同時に数学者でもあるエリック・ワインスタイン(Eric Weinstein)が、半ば冗談混じりでIntellectual Dark Webという造語を作るに至ったのだった。

そして、2018年5月にニューヨーク・タイムズの論説記事がI.D.Wを新しい知的動向として取り上げたことをきっかけに、この語は広く知られるようになった。現在、I.D.Wと目されている人々のリストは有志によって作られたサイトから確認できる。

Intellectual Dark Webのサイトより引用

グーグルの文書リーク事件

I.D.Wの主張はたしかに現代のリベラル社会にとっては往々にして耐え難いものとして映る。というのも、社会における構造的な差別や不平等と思えるものは、実は個人の選好や選択、あるいは生物学的差異から必然的に帰結したものに過ぎない、と彼らは主張してはばからないからだ。

たとえば、クリスティーナ・ホフ・サマーズは、ジェンダー間の賃金格差は、女性が給料の安い職業を選択していることに拠ると論じている。

こうしたことは、グーグルの元ソフトウェア技術者ジェイムズ・ダモア(James Damore)が2017年7月に作成し、その後社外にリークされ問題化した「グーグル内のイデオロギー的エコーチェンバー」という文書に対するI.D.Wのスタンスにも表れている。

ジェイムズ・ダモア氏〔PHOTO〕Gettyimages

この社内文書の内容は、ダイバーシティ(多様性)を推進するグーグル社内に存在する政治的バイアスの指摘から始まる。そのバイアスとは、一言でいえば「弱者を思いやるべき」や「格差は不正によるもの」といった左翼的なバイアスであり、こうしたポリティカル・コレクトネスの空気がファクト(事実)に目を向ける論理的な思考を抑圧している、というのだ。

たとえば、テクノロジー業界におけるジェンダー・ギャップの原因は、女性に対する社会的偏見や差別ではなく、もっと根本的な生物学的な差異に起因しているとダモアは主張する。統計学的に見ても、女性は男性に比べて、考えること(ideas)より感情や美的センスに親和性があり、また女性は概して「物」よりも「人」に強い関心を持つ傾向性がある。

男女格差の是正は、こうした生物学的差異に基づいたやり方を模索するべきであって、一律に女性の雇用率を男性と均等にしようとするプログラムは差別的であり不公平であると批判するに至る。