# 中国

滞日15年の在日中国人が焦燥する「母国の猛烈成長と日本の衰退」

このままでは、ついていけなくなる…
中島 恵 プロフィール

勉強しないとついていけない

私は思い切って、陳さんが語っていた「恥ずかしい失敗」について聞いてみた。

「数年前、上海に行ったとき、私はポケットにタバコを準備していました。かつて中国ではタクシーに乗ると運転手さんから「1本どう?」と勧められることが多く、タバコはコミュニケーションの潤滑油になっていましたから。以前、中国人はよくタバコを吸いましたし、タバコをもとに会話が始まるのが中国特有の習慣でした。

でも、上海のガソリンスタンドで、自分は気を利かせたつもりで店員に1本タバコを勧めたら「ここはタバコ禁止ですよ」とあきれた顔でいわれてしまいまして……。そりゃそうですよね。ガソリンスタンドですから。自分は「昔の中国」のことしか知らないのだと思い、浦島太郎になったような気持ちで、顔から火が出るほど恥ずかしかったんです」

中国人でありながら、中国の急激な変化についていけない焦りや葛藤――。陳さんはその焦燥感をなんとか払拭しようと、ここ数年、できるだけ東京で開かれる中国セミナーや中国関係の勉強会に出席し、中国の現状を理解するように努めてきた。

中国人だけでなく日本人が講師のこともあるが、日本人の中国通の話にも素直に耳を傾ける。周囲の中国人から中国のお土産話を聞く程度では足りず、中国について必死で勉強しないと、もうついていけないと感じているからだ。

私が陳さんと出会ったのも、ある中国関係の勉強会の席だったのだが、陳さんは私に「またこういう機会があったら、教えてください。中国のことをもっとキャッチアップしないといけない。中国のことをもっと知りたいのです」と恥ずかしそうに語ってくれたのが印象的だった。

上海の街並み〔PHOTO〕iStock

「中国の自慢話ばかりしないで」

かつては「日本にいる自分のほうが先を行っている」と思っていたが、中国が経済成長を遂げるなかで、その優越感は徐々に減退し、むしろ「置いていかれないか」という危機感が強くなっていく――そうした焦燥感は、自分の子どもと向き合うときにいっそう強くなる。

子どもたちは日本生まれ、日本育ちの中国人だ。日本語はネイティブで、中国語は少しできるが、あまり積極的に話そうとしない。日本の小学校に通っているので、友だちも日本人。気持ち的にももうすっかり日本人みたいだ。

このまま、日本でのんびりと育ってしまっていいのか、目まぐるしい変化を遂げ、競争の激しい母国についていけるのか。そんなふうに悩むことも少なくない。

そんな子供たちのために、陳さんは中国に帰省する機会を意識して作ってきた。大型連休を利用して帰省するのだが、子どもたちに今の中国を説明するにも、まず自分が理解しなければいけないので一苦労だ。

数日経つと、子どもたちも中国の雰囲気に慣れてきて、中国語も自分から話し始めるようになるが、すぐにまた日本に戻る日がきてしまう。子どもたちに「今の中国」を見せることに限界や難しさを感じている。

日本にいても、中国のテレビ番組やDVDなどの映像を見せて、今の中国を少しでも体感してもらおうと思っているが、子どもたちからは嫌な顔をされる。姉の子どもが遊びにきていたときにもDVDを見せたところ「おじさん、中国の自慢話ばかりしないでよ」とはっきりいわれてしまった。

自分はただ中国の現状を少しでも子どもたちに見せ、母国に関心を持ってほしいと思っただけだったが、「日本だって、すごいよ」と逆に言い返されてしまった、としょんぼりしていた。