新疆ウイグル「絶望旅行」を終えて帰国した大学生の本音

ノービザ&6万円で行けるが…
安田 峰俊 プロフィール

「安全」なダークツーリズムの地・新疆

――現在進行系の悲劇が存在している場所という点で、新疆へのダークツーリズムは興味深いものがあります。

もともと中国に悪感情を持っていなくても、新疆にいると「中国共産党の政策は許せない」という義憤を感じてしまったのは確かですね。ウイグル族は宗教信仰を制限されて、伝統的な建物も壊されている。日本で僕らが当たり前のように享受している「人権」というか、人間の尊厳みたいなものが、新疆では少なくともウイグル族に対しては存在していなかった。肌感覚として「民族弾圧は確かに存在する」と考えざるを得なかったです。

※カシュガル三運総合市場。ここに限らず市内の商店は柵で囲まれている。(Enaminさん撮影)

新疆の特殊性をあらためて認識したのは、国境を超えてからでした。中国を出てキルギスに入ると、モスクはどれも「生きて」いましたし、人々の表情も明るい気がしました。ただ、キルギスで夜間にちょっと治安の悪い場所を歩いたときには、新疆では味わったことがない「治安への不安」も感じました。新疆だと大量の監視カメラがあるので、スリや強盗みたいな単純犯罪に遭うことはまずないように思えたんです。

――新疆は極端すぎるとはいえ、中国はどこでも監視カメラだらけです。ただ、中国人にはそれに一種の安心感を覚える人も多いんですよね。個人の行動が国家に監視されることへの懸念より、従来は多かった泥棒や誘拐が起きなくなることの安心感を重視する人が多い。

かもしれないですね。日本人は中国人(漢民族)と外見的に似ているためか、漢民族住民と同じく手荷物検査や顔認証検査もほとんど免除されます。つまり、新疆では「守られる」側の方にいるので、ある意味での安心感もあるわけです。旅行のしやすさで言えば、上海や北京を旅したことがある日本人なら、何の問題もなく旅ができてしまう。料理はおいしいですし、自然の風景も美しい。

カシュガル市内の「旧市街」。建物はすべてリノベーションされてしまったが、伝統的なウイグル人の居住地域だ。(Enaminさん撮影)

人権弾圧問題や民族問題といった中国の負の面を、完全に「安全」な状態で観察してさまざまなことを考えさせられるという点では、新疆はダークツーリズムの行き先としてはおすすめなのかもしれません。ただ、重ねて言いますが、たとえ好奇心だけを理由に現地に行っても「中国共産党の政策は許せない」という思いを抱いてしまう場所ではありました。

――ありがとうございました。

 

本物の恐怖政治とは何か?

一般的な日本人は、「人権が蹂躙されている社会」について、なかなか想像が働かない。なんとなく、『北斗の拳』や『マッドマックス』に出てくる近未来世界のような、傍若無人な悪党が公然と庶民を虐待している感じの社会をイメージする人も多いのではないだろうか。

だが、本当の恐怖政治が敷かれた社会では、権力の暴力装置が道端で無差別に庶民を痛めつけたりはしていない(むしろ権力の管理統制が行き届かず安定性に欠けた社会のほうが、末端の警官や兵士が暴走する)。

新疆におけるウイグル族の強制収容や拷問は、陰で人知れずおこなわれている。そして、その恐ろしい噂と徹底した人民監視のもとで人々の活力が奪われた結果、むしろ「安全」で「平和」な社会が実現してしまっているのである。

※カシュガルの旧市街。人通りはまばらで、左手のモスクは「アッラーフアクバル」のアラビア語の額が取りさらわれて「愛党・愛国」のスローガンが取り付けられていた。(Enaminさん撮影)

また、広義の支配階級を形成している多数派の人たち(漢民族)にとっての新疆は、そこそこ暮らしやすい社会であり、物質的な面での豊かさも十分に存在している。少数民族への抑圧と恐怖支配のシステムはすでに一定の安定性を持って定着しているとも言えるのだ。

決して渡航を積極的にオススメはできないが、一般的な日本人旅行者であれば非常に安全な旅ができる「持続可能性のある地獄」、それが新疆だ。ご興味のある方は、次の休暇の旅行先として検討してみるのもいいかもしれない。