日本の銀行はこれからどこへ向かうか…メガバンク幹部の「一つの考え」

銀行が町医者になる日、の意味とは
林 尚見

メガバンクは町医者になる

──もっとできることとは?

自分のためにやっている事務なのか、お客さまのためにやっている事務なのか、わからなくなっている部分があると思うんです。銀行が銀行自身のためにやりたいことを、お客さまにお願いしているというようなことが、まだまだたくさんあるんですね。それがあるうちは適切なUI/UXを提供できていないということになりますから、これは変えなくてはなりません。

ただ、電子記帳業者として生き残っていくために、間違えずにしっかりと記帳を日々重ねていくということはお客さまには約束しなくてはいけません。これを間違えず正確にやるためにかかる膨大な事務コストを減らす努力を惜しむつもりはありませんが、それに対する対価をどこかで求めざるを得ないというところはご理解いただく必要はあるのかなとは思っています。

──例えば全銀ネットの仕組みは、世界でも指折りの厳重さだそうですが、その分色々な意味で重たそうです。

全銀ネットで言いますと、今年またバージョンアップされまして、24時間365日いつでも同時決済ができるようになったんです。これは世界においてもトップレベルのサービスだと思います。

──そうした強大なシステムがあれば、そうとういろんな新しいこともできそうな気がしてしまうんですね。銀行は、それこそAmazonやGoogleがやってきたようなデータを活用したパーソナライゼーションやサービスの向上なんかをもっとやれていたのではないかと思います。もちろんさまざまな規制があるとは思うんですが。

そうしたことが検討されたこともあるんです。わたしたちの業界はアクセルを踏みながら、同時にブレーキを踏んでいるような状態にあって、それで思い切った手を打てていないということはあると思います。

──銀行自体がサービスの開発者にならなくても、第三者によるアプリケーションを乗せるプラットフォームとして機能できるようにも思いますし、何よりもまずは個々人のお客さんの財務状況を見ながら適切な助言や提案などをしてくれたりするといいと思うんです。AI とチャットボットで、それができるなんていう話は、欧米では盛んにされています。

頭取がよく言っていますのは、メガバンクのリテールビジネスはこれから「町の診療所になるんだ」ということです。町の診療所というのは、例えば年に1~2回患者さんの健康診断をして、もし異常が見つかったら、助言と投薬をすることができる、そういう存在のことを指しています。

カバレッジの広がりと質を両立する。そういうふうに個人のお客さまとの取引が組み立てられていくことができるのが理想なんじゃないかということですが、わたしはそれは、銀行の将来像を的確に表現した喩えだと思っています。

──それこそ北欧の旅の途中で、「銀行は、創業以来150年目にしてはじめて『ビジネス』というものをしなくてはならない」とおっしゃられて、わたしはそのことばに相当の衝撃を受けたのですが。

これまでわたしたちは、国内に3400万もの口座をお預かりして、その上に乗っかってストック収益にただただ依存してきたわけです。自分たちでは実際にはなんのビジネスもやれていない。だから銀行は「ダメだ」といわれるんです。そうではなく、自分の手で新しいビジネスチャンスを切り開いて、利益を生むことができるのか。やれるのか。それが厳しく問われているんです。

──なにかいいアイデアはありますか?

ここからは多くのトライ&エラーを重ねることになると思います。「情報銀行」というようなアイデアもありますが、それがどういうかたちかでビジネスになるためには、相当な試行錯誤を経ないといけないと思います。とりあえずは、お客さまの同意を前提に、個人データをマーケティングデータとして企業に利用していただくといったアイデアからはじまるのだろうとは思います。

──個人的には、例えばクラブの入り口でバウンサーの人に身分証明書を見せるようなことをなくしてもらえないかと思ったりします。クラブ側にとって必要な情報って「わたしが20歳以上である」ということだけですから、本来、生年月日を相手に渡す必要なんかないはずですよね。自分がエントランスで銀行カードをかざせば、個人情報を相手に伝えることなく、自分が20歳以上であるということだけを銀行が保証してくれる、そういった仕組みがあるといいなと思うんです。

例えば銀行カードは何億枚も発行されています。そうしたカードをどう利活用できるのかなんていうことは十分に考えるに値することだと思います。「世の中の役に立つことやろうよ」って、特に若いスタッフには期待を込めてハッパをかけているところなんです。

「キャッシュはなくなり店舗は消える。支店はスマホになり、金融商品はアプリとなる。データは資産。信用が貨幣。そして「お金」は、あなたそのものになるーーようこそ、未来の銀行へ」。『さよなら未来』の著者でWIRED前編集長の若林恵が考えた、次世代ビジネスマン必読の「次世代銀行論」。『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える

INTERVIEW & TRANSCRIPTION BY KEI WAKABAYASHI

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE

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