日本の銀行はこれからどこへ向かうか…メガバンク幹部の「一つの考え」

銀行が町医者になる日、の意味とは
林 尚見

よそよそしさの帰結

──とはいえ、その堅牢さが、いつからかよそよそしさに変わってしまいました。

それはおそらく経済の成長が止まったからだと思います。7 ~ 8%で毎年成長していた60 ~ 70年代は膨張していた時代で、そういう時代には、じっとしていても利益も自然と膨張していきますから、ストックビジネスはとても楽なんです。不良債権さえ発生させなければいいわけですから。

ところが1%、良くても2%の低成長の時代に入ったところで、メガバンクがなにをやったかといいますと、お客さまをセグメンテーションして、それぞれのニーズに対してしっかり応えられるようにしようとしたんです。そのときに、より利益が上がりそうなセグメントだけが選ばれてしまったんですね。短期的には利益の上がりにくいセグメントは担当者がつかなくなり、そのときからお客さまとの関係が薄れたのではないかと思います。

三菱UFJ銀行の取締役常務執行役員・林尚見氏

──いつのことですか?

2000年代に入ってからでしょうか。

──そうするほかなかったんですか?

そのときはやむを得ない判断だったんだとは思います。いま思えば、他のやり方があったようにも思えますが、ただその頃は、不良債権を処理しなくてはならない、所持している持ち合い株を損失なく売却しなくてはならない、さらに国際金融規制がこれから厳しくなる、といったさまざまな要因があって、自分たちの経営資源を、確率高く利益を上げられるところに割かなければならなかった。

 

──次いで、その後にデジタルテクノロジーが急速に普及して、大きな変化がやってくるわけですが、そのインパクトも当然あったわけですよね。

当時もそれはあるにはあったんですが長続きしなかったんです。2000年前後の当時のデジタル技術のなかで、マイクロファイナンスやモデル審査などにもチャレンジしたんです。ところがデータの精度が十分ではなく、かつコンピューティングの方もいまひとつ迫力がない。つくったモデルはすぐ真似される。結果、大きな不良債権が出ました。で、これは無理だなと判断して、いったん休止状態になってしまったんです。

それで次に何を考えたかというと、2010年あたりから、自分たちではやれないことは、例えばアメリカの投資銀行に出資することで補おうということで、リーマンショックの直後、モルガン・スタンレーに出資しました。さらにその後は、自分たちがかつて日本国内で経験した業務を海外で再現するチャンスということで、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど、東南アジアの商業銀行に出資してきました。

そうこうしているうちにマイナス金利になり、ここで風向きが一気に変わるわけです。デジタライゼーションについていえば、まず国内の銀行業務における経費を最適化するために有効だろうという仮説からはじまっていました。そこで追加の粗利が稼げるとは思っていなかったんです。

──業務の効率化ですね。

はい。いまある長い長い事務プロセスや、煩雑な事務プロセスは、当然お客さまにもご迷惑をおかけしていますが、同時にこれは、行員にとっても幸せなことではありません。とても不幸なプロセスです。微細なことで間違えて、後から行内検査が入って「なんで間違ってるんだ」と言われ、一生懸命真面目にやっている行員ほどイヤな思いをするわけです。

一方で、そうやってルーチン化された仕事は楽でもあります。毎日同じ仕事をやって、5時に帰って、それなりに給料がもらえるならそれはそれでOKです。でもこれからの銀行は、そういうところから行員を解放して、新しいところへ連れていかなくてはならない。デジタライゼーションにはこういう論点もあるんです。

──でも、新聞の一面を飾るのはレイオフの話ばかり。

これは、いきなり何千人も解雇するっていう話ではありません。数千人が、今後何年かの間に銀行を卒業されていくということですから、自然減なんです。バブル期に採用していた人数が旧4行の合算で毎年1000人以上だったのと比べると、いま新卒の採用は半分以下の数百人になっています。ということは、かつて2人でやっていた仕事を一人でやっていることになりますから、これはもう業務量を減らすか、AI に肩代わりしてもらうか、あるいは業務を切り出して外部にやっていただくということにならざるを得ない。

──そこでデジタル技術をテコにして、これまでのサービスのあり方をドラスティックに変えなくてはという話にもなってくるとは思うのですが、そうした課題が鮮明になってきたのはいつ頃からなんでしょう?

もう10年以上も前から考えてはいましたけれど、これはいよいよ本格的にやらないとダメだ、となったのはこの2年ですね。

──それはなにが大きな要因で?

やはりマイナス金利ですね。とはいえマイナス金利それ自体が問題なのではなくて、長期金利と短期金利の差がほとんどなくなっていることが問題で、そうなると商売として立ち行かなくなってしまいます。