PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE

日本の銀行はこれからどこへ向かうか…メガバンク幹部の「一つの考え」

銀行が町医者になる日、の意味とは

モバイル/スマホの興隆、フィンテック企業の猛攻、マイナス金利の打撃、そして怒涛のキャッシュレス推進。暗い嵐の大海をさまよう、メガバンクという巨大船は、どこを目指し、どう舵を切るのか?

世界に冠たる、精緻にして精妙なシステムを築き上げた日本の銀行業界は、そのレガシーのなかに、どのような可能性を見出し、いま何に取り組むべきなのか。キャッシュレス、ブロックチェーン、AIチャットボット、そして情報銀行まで、若林恵と親交の深い三菱UFJ銀行の取締役常務執行役員・林尚見が、メガバンクの未来と使命を語る。

(インタビュアー:若林恵。本インタビューは、若林恵氏が編集長を務めた『NEXT GENERATION BANK』に収録されたものの転載となります)

 

空気と水と12億口座

──2016年にドン・タプスコットという人が書いた『ブロックチェーン・レボリューション』という本のあとがきを書かせてもらい、それが縁で林さんとは何度かお会いして、今年は北欧への視察旅行にもご一緒させていただいたんですが、実は、かなり驚いたんです。というのも「あとがきを読んだ。面白かったから会いたい」という感じで、藪から棒に電話がかかってきましたので。正直かなりビビったんですが(笑)。

面白い本に出会ったときは、できるだけ著者の方にお会いするようにしているんです。直接お話ししたほうが理解もクリアになりますから。

──それこそ岩井克人先生や、岩村充先生などともお会いになったと聞いていますが、昔からそういう感じでいきなり飛び込みでやってたんですか?

チャレンジするようにはしてます。銀行の仕事というのは、空気や水に似たものなんです。生まれたときからそこにはお金があり、当然のように銀行がある。ある年齢に達したら、みなさん口座をもち、何の疑いもなくそこからお金を出し入れする。日本には統計的には12億口座くらいあるらしいですから、国民1人あたり5から10の口座をもっている勘定になります。

そのように当たり前に存在しているものですから、ともすると、その本質がすぐ見えなくなります。

かつて人事部にいたのですが、新卒で入ってきた行員たちに、そこを正しく理解していてもらわないと、出発点を誤ることになりますから、お金とは何か、銀行とは何かといったことを伝えていたのですが、それをするためには、まず自分がそれを常に考えていないといけません。

──おっしゃられた「銀行の本質」っていったい何なんでしょう?

わたしもかつてはそうだったんですが、銀行って「お金を貸すためにある」と思っていらっしゃる方が多いんです。けれども銀行はお金を貸す前に、まずはお金を預らなくてはなりません。「お金を預けてもらえる」ということは、「財布を渡しても平気」ということですから、財布を渡してもいい相手とはどういう存在なのかを考えなくてはなりません。

どういう相手であればそれが許せるのか、そして自分たちはその相手としてふさわしいのか。おそらくその辺に本質があるように思います。信頼や信用というのは、どこから生まれるのか、ってことですね。

──どこから生まれるんですか?

例えば弊行は全国に8000台強のATMを置いていますが、それが毎日毎日、数え切れないほどの引き出し・預け入れの処理をしています。それが一回たりとも間違えずに起動しているというところに信頼は宿るんだと思っています。それが、間違えずに起動しているということは、そこにちゃんと標準化された事務があり、それがシステム化されているということです。かつ、そのオペレーションは巨大であり、同時に、緻密で繊細なものです。

であればこそ、それを着実に執行するためにも、多くのルールがわたしたちには課せられています。そこからわたしたちのビジネスははじまっているんです。

──鶏か、卵か、みたいな話になりそうですが、堅牢なシステムがあるから信頼されるのか、信頼されているから堅牢なシステムが必要なのか。

お客さまがシステムを評価して信頼をしてくださっているということではないかもしれません。伝統、つまり長いことそこで仕事を続けていることが、信頼を生み出しているということなのかもしれません。いずれにせよ信頼を継続させるためには、信頼に応えなくてはなりません。システムの堅牢さは、その信頼の持続性を表しているのだと思います。