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誤差100m! 日本の独自技術で「ピンポイントの月着陸」実現へ

小型月着陸実証機「SLIM」に迫る
将来の月惑星探査で重要な技術の一つが重力天体への精度の高い着陸です。
SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)は、このピンポイント着陸技術を実証するための小型月着陸実証機です。
日本独自の技術の獲得を目指して開発の進むSLIMについて、坂井真一郎プロジェクトマネージャに聞きました。

取材・文:寺門和夫(科学ジャーナリスト)

誤差100mのピンポイント着陸を目指す

──SLIM(小型月着陸実証機)の目指すところは何ですか。

坂井 SLIMが目的としているものは大きく二つあります。第1は、月などの重力のあ
る天体にピンポイント着陸する技術を実証することです。具体的には、狙ったところに100mぐらいの誤差で着陸することを目指しています。第2は、そのピンポイント着陸技術の実証をなるべく小型で軽量な探査機で実現することです。

──重力天体への着陸は、技術的にどこが難しいのでしょうか。

坂井 重力に対抗しながら降りていかなくてはならないので、いかにエンジンに大きな推力を発生させ、それを制御するかが大事になります。

エンジンの細かい制御はパルス燃焼という方式で行います。メインエンジンをずっと噴き続けるのではなく、少し噴いては止め、また少し噴いて止めということをして推力の調整をするのです。

効率すなわち燃費が良く、大推力で、さらにパルス燃焼が可能というエンジンはそれほどありません。私たちは今、金星探査機「あかつき」のエンジンをベースにそのようなエンジンを開発しています。

──推進剤を入れるタンクにはどんな工夫をしていますか。

坂井 SLIM全体の重量の中で、推進剤はかなりの部分を占めることになります。小型軽量に作ることがSLIMの大きな目的になっていますので、タンクそのものを軽量化するために、「一体型タンク」という方式をとります。

燃料と酸化剤のタンクを別々にするのではなく、一つの大きなタンクの中で部屋が分かれていて、そこに燃料と酸化剤が入るという方式を取ろうとしています。

──海外の探査機も含め、一体型タンクというのは、これまでなかったのではないですか。

坂井 多分、はじめての試みではないかと思います。

坂井真一郎坂井真一郎(さかいしんいちろう)
宇宙科学研究所SLIMプロジェクトマネージャ、宇宙機応用工学研究系准教授

──月面への着地はどのような方式で行いますか。

坂井 アポロ宇宙船やこれまで月に着陸した探査機では関節型の脚が採用されていますが、SLIMでは衝撃を吸収する材料を使った新しい方式の脚を開発しています。

空隙の多いアルミ材で脚をつくり、着地の際にそれが変形することで、着地の衝撃を吸収し、安全に着陸するという方法です。

脚をスポンジのような金属で作ることによって軽量化を図ることができます。

──これも世界で初の試みですね。そのような部材をどうやって作るのでしょうか。

坂井 3Dプリンターを使って三次元造形をします。この方法の利点は、衝撃を吸収するためにどのくらいの空隙率にしたらよいかを実験しながら作ることができることです。

──月面といっても、砂(レゴリス)に覆われた平地もあれば、岩石がごろごろしている場所もあります。また、斜面に着陸する必要もあるかもしれませんね。それによって、空隙率や脚の形状は違ってくるのではないですか。

坂井 そのあたりはいろいろなシミュレーションをするという形で調べているところ
です。

──この方法は将来の大型の探査機、さらに有人の月着陸機などにも応用可能でしょうか。

坂井 可能性はもちろんあると思います。SLIMではいろいろなチャレンジをしていますが、脚もそのうちの一つです。

画像照合技術で自ら着陸地点を判断する

──ピンポイント着陸の方法についてうかがいます。

坂井 探査機を月に着陸させる場合、これまでは地上から探査機の軌道を決定し、降りるタイミングを決めていました。しかし、月を周回する探査機の軌道を地上から正確に知るのには限界があり、高い精度で目的の場所に着陸させることが困難でした。

そこでSLIMでは、探査機自体が月面のクレーターを写真に撮り、それを自分の持っているクレーター地図と照合して自分の位置を知り、目的の場所に着陸するという方法をとります。

クレーター地図のもととなるのはJAXAの月周回衛星「かぐや」の地形カメラのデータです。また、アメリカのLROという周回衛星のデータも用います。これらの探査機の画像の精度からして、約100mの精度での着陸が可能と考えています。

──自分が撮影した画像から、月面のどこの上を飛んでいるのかを知ることができるわけですね。これは難しい技術なのでしょうか。