ビル・ゲイツ大絶賛の書が私たちに投げかける「重要な問い」

私たちの見ている世界は本当に正しいか
上杉 周作 プロフィール

大事なデータを探すヒントは、日経BP社から今月発売された訳書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』にある。訳を担当したのはわたしと、ベテラン翻訳者の関美和さんだ。

原著の著者はハンス・ロスリング、息子のオーラとその妻のアンナ。ハンスは医師であり、公衆衛生の専門家であり、世界を飛び回る講演者でもある。ノーベル賞受賞者の会議や、世界経済フォーラムのダボス会議でも彼は講演してきた。TEDカンファレンスで彼が行なった講演の動画は、累計3500万回以上再生されている。

10の思い込みを乗り越える

ある日ハンスは、世界の貧困・教育・環境・エネルギー・人口・公衆衛生などの現状について、ほとんどの人がとんでもない勘違いをしていることに気づく。それ以来ハンスは、「事実に基づく世界の見方」を広めることに人生を捧げた。『ファクトフルネス』は、ハンスの仕事の集大成だ。

ビル・ゲイツは、本書を「わたしの読書人生の中で、最も良かった本のひとつ」と評した。あまりに気に入りすぎて、2018年にアメリカの大学を卒業した学生のうち、希望者全員に電子版をプレゼントしたほどだ。

本書では、多くの人が持つ「10の思い込み」を紹介している。これらの思い込みにとらわれると、データを基に世界を正しく見れなくなるという。そのうちふたつを紹介しよう。

 

第一に、多くの人は「世界は分断されている」と思い込んでいる。先ほどの例だと、「日本の出生率と、アジアの貧しい国の出生率には分断がある」と思っていた人がいるかもしれない。

しかし実際には、沖縄の出生率がベトナムの出生率と変わらなかったりと、「分断」ではなく「重なり」がある

第二に、多くの人は「貧しい国の人口はひたすら増え続ける」と思い込んでいる。たしかに、貧しいアジアの国々で、人口はこれからも増え続ける。しかし、子供の数はすでに横ばいになっている

先ほどの9ヵ国で、2016年から2017年のあいだに、15歳未満の子供の数はどれだけ増えただろう?

世界銀行によると、子供の数がこの1年に1%以上増えたのはカンボジアとモンゴルのみ。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムではほとんど変化なし。ネパール、タイ、ミャンマーにおいては、子供の数は1年間に1%以上も減っている。

ネパールは、ひとりあたりのGDPが日本の16分の1という貧しい国だ。そんな国でも、すでに少子化が始まっている。

思い込みにとらわれると、データを見ようとしなくなる。すると、「途上国はみな子だくさんなんだろう」というような、間違った結論にたどり着いてしまう。

逆に言えば、多くの人が持つ思い込みを乗り越えることで、「多くの人が見過ごす大事なデータ」を探し当てることができる。『ファクトフルネス』は、そのための道しるべとなる本だ。

ちなみに、ここまでの出生率の話は、『ファクトフルネス』の第1章にあった話が基になっている。『ファクトフルネス』では世界の出生率について語られていた。一方、本記事では日本の時事ネタに登場する9ヵ国だけに絞った。身近な話のほうが興味を持ってもらえると思ったからだ。