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「どうしようもなくダメな男」を愛さずにはいられない女達に捧げる本

金原ひとみが選ぶ「最高の10冊」

クズ、でも好き

今回、いざ10冊を選ぼうとすると難しく、思いついた順に好きな本を挙げましたが、ここ数年に読んだ中で、圧倒的に面白かったのが『無垢の博物館』です。

30歳の主人公がどうしようもない男なんです。

完璧な婚約者がいながら、18歳の美しい女性に溺れていく。そして、彼女にまつわる物をどんどんコレクションしていく。この人ダメだなあと思いながらも、かわいくてしようがなくて、のめり込んで読んでいると、後半、ハッとさせられるんですね。

突然、著者のオルハン・パムクが出てきて、主人公の〈わたし〉から、〈パムク〉の視点に代わるからです。で、パムクによって主人公のやっていることが客観的に語られるようになると、ストーカー気質の気持ち悪いヤツ、と思わずにはいられなくなってくる。

それでもラストでは再び、この主人公はやはり愛すべき人だという気持ちにさせられるから凄いです。

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禁じられた恋という古典的なモチーフを使いながら、これまでにないフィクションの形を完成させた小説だと思いました。

この主人公に限らず、何かに執着したり、偏愛する人の話が好きです。私自身もそういう面を持っているから、共感しやすいんだと思いますね。

軽蔑』の主人公もネチネチした男性です。もともと映画(ジャン=リュック・ゴダール監督)が好きで、原作があると知って読んだら、やはりとても好きな作品でした。

 

これも主人公の一人称で語られる小説で、〈わたし〉は妻との関係が上手くいかなくなった理由を、ぐるぐると考え続けています。

ただし頭で考えているばかりで行動せず、いざ奥さんを前にすると卑屈になってしまうところもあって、結果、二人の溝はさらに広がっていく。

妻から見たら困った旦那に違いないのですが、こういうクズな人っているよな、わかるな、と。そして私は好きだなと(笑)。

'50年代にイタリアで書かれた作品にもかかわらず、夫婦の難しさ、男性の在り方の変化など、現代に通じる美しい作品です。

不倫にある必然性

『軽蔑』が男性視点の小説なのに対して、『かなわない』は女性の一人称で書かれた日記です。

著者の植本さんが家族や育児のこと、恋愛についてなどを、力のある言葉で綴っていて、現実に起こったことの重みを感じると同時に、どんな現実も文章にした瞬間、フィクションになり、またフィクションが読む者の現実に作用してくる、という創作のパラドクスについても考えさせられました。

植本さんには旦那さんと二人の娘さんがいて、家庭と仕事をギリギリのところでやりくりしているうちに恋をします。これを読むと、不倫にはそこに至るまでの必然性があることがよくわかります。

生き延びるため、何かから逃れるためにすることはあっても、世間で言われるような快楽をむさぼるための不倫は、現実にはほとんど存在しないんじゃないかとも。

不倫を批判する人を含め、今を生きる人すべてに読んでもらいたい本です。

ここに挙げた10冊のうち、2冊は漫画です。それほど漫画を読むほうではないですが、薦められたり、話題になっている時などに手に取りますね。

G戦場ヘヴンズドア』は、号泣しながら読んだ作品です。

漫画を愛する天才高校生・鉄男と、人気漫画家の息子ゆえに、父を嫌い小説家を目指す高校生・町蔵。二人が出会い、創作の世界に足を踏み入れていくのですが、同じく創作をする人間として、彼らの困難も覚悟も、痛いくらいわかりすぎて、編集者とのやりとりなんかも、ああ、あるよなぁと。

クリエイティブな仕事をしている人には、必ずどこか琴線に触れるところのある作品だと思います。

ただ、この漫画の友情や青春の描き方って、いわゆる直球のスポ根漫画とはちょっと違うんです。だからそこが物足りないと感じた人からは「どこで泣いたの?」と言われたことも(笑)。文系人間の私には、そのほうがリアルで、感情移入できたのですが。

私の創作について言えば、子供の頃から書き始め、売れようが売れまいが、もっと言えばデビューしようがしまいが、書くことは一生続けていくだろうと漠然と思っていました。最も上手く人に物事を伝えられる手段が、文章だったのです。

そういう私がはっきりと作家に憧れるきっかけとなった一つが『コインロッカー・ベイビーズ』でした。

これほど完成された世界観を創り上げられる人間がいるのかと、衝撃でした。作家への道筋を付けてくれた作品ですね。(取材・文/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

「まず、タイトルに射抜かれました。装丁もプリントしてiPhoneケースにしたいくらい大好き。3作、すべて若者が主人公なのですが、私の友人? と思うぐらいリアルで、思わずページをスクショして友人に送りました」