採用の限界…「史上最高の人手不足」に見る中小企業の未来

有名企業ばかり受ける就活生が陥るワナ
トイアンナ プロフィール

学生にとっても仇となりうる売り手市場

このような「売り手市場からの大手・有名企業への一極集中」は、学生にとってもデメリットがある。「大手全落ちからの無内定」コースだ。

ある19卒の学生はこう語る。

「就活は最悪でした。食品メーカーに興味を持ったんで、明治、カゴメ、味の素、グリコと大手を中心に5~6社受けて、エントリーシートすら通らなくて。やっべ、と思ったらもう大手のエントリー期限が過ぎちゃって……。もう留年するしかないか、って焦りました。

最後は父親の知り合いの会社に入れてもらいましたけど、親からその話が出てくるまではウツでしたね。今も満足してないですし。できれば就留(就職留年)してやり直したいです」

 

大手食品メーカー文系部門(経理、人事、営業など)への就職は、採用人数のわりに応募者が多いため倍率が高くなりがちである。たとえば明治は事務系総合職の募集が4人に対し、応募者約1万1,000人。採用倍率は2,750倍に達する。

売り手市場だからといって、人気企業は人気企業のままである。売り手市場では「どうせ通るから大丈夫だろう」とたかをくくって超人気企業だけを数社受け、全落ちする学生も増える。

不景気であれば学生も危機感を抱いて早期に倍率を調べ対策を打てたであろうに、学生にとっても売り手市場が仇となるケースもある。

〔PHOTO〕gettyimages

入社後ショックを受け辞める学生も

また、「無内定」のワーストケースに限らずとも、もう少し探せば自分に合う企業を探せた学生が、売り手市場だからと知名度が高い企業へとりあえず内定し、入社後にミスマッチに気づく……という相談がこの数年で増えた。

ある大手保険会社へ内定した学生は、こう述べた。

「働き方改革なんて、ないですね。土日もフルで働かされてて、睡眠時間が3時間なんてこともあって。先輩もそれくらい働いてるので、それが当たり前って感じです。しかも残業代は月20時間しか申請できないんで、100~120時間くらいは毎月サビ残(サービス残業)です。人事部の人は嘘をついてないと思いますよ。あのひとたちは早く帰れてますもん。

就活してたときは、会社がブラックか、ホワイトかしか見てなくて。同じ会社でも部署でこんなに差があるなんて思いませんでした。しかも大手でこんなことがあるなんて。ブラックなのは中小だけだと思ってました。騙されました」

働き方改革を推進したい人事部と、残業時間を減らせと言われるばかりで人材は補充されない現場。場合によっては違法な「サービス残業」で補填するところもあるだろう。こういった理想と現実のギャップにショックを受け、早期転職を考える学生は後を絶たない。

筆者はこういった労働環境を理由に優秀な学生がより労働しやすい会社へ移動すること自体をポジティブに受け止めている。

他方、学生がOB・OG訪問で労働環境の実情を確認することもなく「とりあえず大手で」と内定できてしまう現状には警鐘を鳴らしたい。

若手のうちは丁稚奉公のつもりでと覚悟して飛び込む激務と、後から知らされて「知らなかった、騙された」と感じる激務ではショックの度合いも大きく異なるからだ。