米スミソニアン自然史博物館にあるフローレス原人の復元像 Photo by Getty Images

研究史を覆した「身長110cmの成人女性」も「我々」である理由

「人類学の先」のビッグヒストリーへ
「サピエンス以前」の人類史をあざやかに活写した『我々はなぜ我々だけなのか』
ブルーバックスWeb連載をもとにした同書が2018年の講談社科学出版賞を受賞するにあたり、著者・川端裕人氏がPR誌「本」に明かした秘話をお届けする。

神話と接続できる場所

拙著『我々はなぜ我々だけなのか』(講談社ブルーバックス)が、講談社科学出版賞という素敵な賞をいただけると連絡を受けたのは、7月のただひたすら暑い日の夕方だった。

著者だけでなく、編集チーム、監修者であり指導者であった国立科学博物館の海部陽介さんという存在も含めて高い評価を得たということで、大いに喜んだ。

未読の方はぜひ手にとってほしい。これまでほとんど話題にされてこなかったアジアにおける人類進化を、我ながら熱く楽しく語っており、今のところ類書はない。

高校の歴史で学んだジャワ原人と北京原人、21世紀の人類史研究最大の発見「フローレス原人(身長110センチほどの小型人類!)」、最近海底から顎の骨が引き上げられた「澎湖人」といった多様なヒトたちのことを、今ここにいるぼくたちと同じホモ属、つまり「我々」の一部として描いた。

多様なヒトがおりなすアジアの人類史は、人類進化の理解に新たな光を投げかけており、やがて紡がれるであろうアジア発の「ビッグヒストリー」の予兆を感じさせてやまない。一緒にワクワクしましょう! そういう作品である。

さて、受賞の連絡を受けた直後、ぼくは日本を脱出して旅に出た。アイスランドに寄ってから欧州をめぐり、最後にイスラエルを訪ねる旅程で、とくに最後のイスラエルでは大きな衝撃を受けた。

アフリカ大陸とユーラシア大陸をつなぐシナイ半島に隣接するこの地域は、人類史のホットスポットのひとつだ。世界文化遺産のカルメル山の洞窟からは多くの人類化石が見つかっており、今年になってから19万年前のホモ・サピエンスの歯が発見されたと論文発表された。年代が本当なら、最古の出アフリカの記録だ。

ネアンデルタール人の骨が出る洞窟もその数十メートル先にある。我々のご先祖たちとネアンデルタール人はどんなふうに出会ったのか、想像をかきたてられる。

ネアンデルタール人が退場し、ホモ・サピエンスだけの世界になったあとのことも、イスラエルではそのまま追跡できる。ぼくたちが「神話」だと思っているような時代のエピソードが、遺跡を発掘することで検証できる。

聖書に出てくる「モーゼの弟子のジョシュアが滅ぼしたエリコの町」には、1万2000年にわたってずっと人が住みつづけており、港湾都市ハイファにある「預言者エリヤが潜伏していた洞窟」は、今でもユダヤ教の礼拝所として使われている。

カルメル山とハイファ20世紀初頭のカルメル山とハイファ Photo by Getty Images

出アフリカの時代と「神話」の時代が接続しているというのは、ぼくにとっては新鮮な感覚だった。

そしてさらに、文書に基づいて史実を探求しうる歴史時代も、そのままひとつながりのものに見える。

たとえば、2000年以上も前に書かれて洞窟の中に隠されていた「死海文書」は、最古の「創世記」を伝えるだけでなく、写本を創り出した「教団」の日々の営みについても詳細に記録していて、当時の人たちのことを文書に基づいて考える材料を与えてくれる。

死海文書「死海文書」の一部 Photo by Getty Images

もちろん、その後のパレスチナ史、イスラエル史は膨大だ。

結局、サピエンスの出アフリカから21世紀の現在まで、すべてが切れ間なくつながっているのだという事実を、圧倒的な物量の遺跡群、文書群をもって実感せざるをえない。

ぼくが大いに納得してしまったのは、世界的なベストセラーになった『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が、エルサレムのヘブライ大学の教授だということだ。この地に生まれ育って学問的訓練を受ければ、たしかに、ああいった俯瞰的な歴史観を抱きうるだろう。石器時代から現代までをひとつなぎに語る圧巻の筆致の背景には、このような環境があったのだ。