本橋麻里さんが北見市常呂町を紹介(撮影/森清)

私たちが世界で勝てたのは、試合が楽しかったからです【動画付き】

カーリング・銅メダリストの告白⑤
2018年の平昌五輪で銅メダルを獲得したカーリング女子代表チーム、ロコ・ソラーレ。チームをゼロから立ち上げた本橋麻里さんの初の著書『0から1をつくる――地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)が、本日から発売されました。「試合を全力で楽しんだからこそメダルを獲得できた」と綴られるその一部を、特別動画とともにお届けします!
 

誰かが喜んでくれるから

私は時々、とても輝かしい人生を送っているように人から見られるんですけれど、そんなふうには全然思っていません。

本当に普通の、どちらかといえば不器用で未熟な人間だと自覚しています。

小さい頃から可能性に満ちていたわけではなく、期待もされてなかった。特にカーリングを始めた頃は、他人より上回りたい、褒められたい、自分に負けたくないと努力を重ねて、なんとかここまでやってきただけなんです。

出会いや巡り合わせに恵まれ、五輪のメダリストと呼ばれるようになりましたが、ちょっとちやほやされても、1年も経てば普通の人になります。

そこで、普通の人で終わるのか、それとも五輪出場という経験を生かして、一つの人格をきちんと確立できるのかという問題は、よく考えていく必要があると思っています。

むしろ私が大事にしたいのは、カーリングを通して、多くの人と出会ってつながり、私のプレーでも喜んでくれる人が徐々に増えていくこと。その「誰かが喜んでくれる」というのが、今のモチベーションに変わっていくことだと思っています。

だから、五輪とか世界戦とか関係なく、私が何かを成せば、あるいは成せなくてもトライしてみたということで、絶対に喜んでくれる人や応援してくれる人がいる。その事実を、読者の皆さんと共有できれば嬉しいです。

あたたかな原風景

カーリングは、基本的に審判のいないスポーツです。

たとえば、相手の石に触れてしまった場合は「ごめんなさい、この石、ちょっと蹴っちゃったかも」といった具合に、相手選手に報告します。

大幅に位置が変わらない限りはだいたい相手選手も、「OK、問題ないよ。(教えてくれて)ありがとう」くらいに軽く応じます。

握手で始まり、握手で終わる。だいたいのトラブルは、プレーエリアにいる8人で相談して完結する。相手のナイスショットには「今のすごかったね」と声をかけて、それを上回るショットを目指す。選手同士がとても自立した競技です。

だから勝敗に必ず理由がある。不思議な勝ちもないし、不可解な負けも存在しません。

また、本場カナダのホールには本格的なバーやレストランが必ず併設されていて、試合後、勝ったチームが負けたチームに一杯奢るなんて文化もあります。

ホールにはジュニア選手からシニア選手まで老若男女が集います。いいショットを決めると、知らないおじさんに「今のは難しかったけど、よくトライしたなぁ」と褒められたり、プレーをしないおじいちゃんがビールを美味しそうに飲みながら「おい、Aシートで今、投げたのはわしの孫なんだ。いい選手だろう」なんて自慢気に教えてくれたりもします。

私にとってのカーリングの原風景はそんな光景です。アイスにもホールにも愛と自立とコミュニケーションが溢れている。カーリングのそういうところが、私はたまらなく好きです。

「楽しい」からこそ勝てた

そして私はそんなカーリングを見て、続けてきた中で、コミュニケーションを密に取れる強いチームをつくろうとこれまで動いてきました。

そうしているうちに、可愛い後輩や頼もしいスポンサーと、目的や目指す場所が交差して、「楽しいカーリング」がどんどん実現できるようになってきたんです。それには本当に感謝しかありません。

ただ、「楽しい」という言葉は、「前向きな気持ちで競技に取り組む」ではなくて、「レクリエーションとして遊ぶ」という意味に取られかねません。

実際、「楽しいカーリング」という表現はたびたび誤解を招いてきたかもしれません。日本選手権で負けて「悔しいけれど、楽しかったです!」とコメントすると、インタビュアーが怪訝そうな表情を浮かべることもありました。

はたまた、関係者から「真剣な競技を楽しいと思う奴はふざけている」とか、「あの子たちはもう、一所懸命やるのはやめたんだね」などと思われたことも、インタビュー取材で「楽しいカーリングって、自己満足に聞こえてしまう」と指摘されたこともあります。

私の伝える力の不足、それに尽きます。

楽しいカーリングをするまでには、普段から苦しい時間を、チーム全員でうまく乗り越えないといけません。それは大前提です。

そのうえで私たちは、楽しさを失うわけにはいかなかったんです。

苦しさの中にも楽しい瞬間を発見して、それを膨らませていくほうが効率も上がります。全力で楽しんでいるからこそ、自分たちの想像以上の完成形が見えてきたりもする、私はそう信じています。

その意味では、チームみんなの笑顔が絶えないような「全力の楽しさ」がチームの根底にあったからこそ、五輪のメダルを獲得できたのかもしれません。このことは『0から1をつくる』の大きなテーマとなっています。