# マネー戦記

「死ねというのか?」ある証券マンが取引先社長から浴びせられた罵声

東京マネー戦記【3】2007年冬
森 将人 プロフィール

「食事に来たわけではないですから」

「これは社長が釣った魚をさばいたものです。うちの社長から釣りの自慢は聞いたことありませんか?」

「いえ……」

「気分を害しますから、是非一口だけでも召し上がってください」

「いや、無理です。今日は、調達がむずかしいということをお伝えに来たのです。食事をいただくわけにはいきません」

ぼくの言葉に、三人が動きを止めた。真っ先に口を開いたのは、一番末席に座る財務課長だった。

「それはおかしいんじゃないですか」

「そういわれましても、私たちは投資家にも確認したうえで申し上げています。御社の今の状況では、買い手はいないというのが私どもの見立てです」

「そんなの誰でもいえるでしょう。あんたらが提案したいっていうから、チャンスをあげたんじゃないですか」

財務課長の口調が変わった瞬間、自分だけで来たことが大変な失敗に思えてきた。

「どんな経緯があったかは、私も存じ上げませんが……」

「今日提案を受けるからって、銀行には断りを入れたんだよ。あいつらも貸したいっていってたのにさ」

荒い口調の背後に偽りがあるのはわかっていた。銀行にも資金の貸し手はいない。だから証券会社に頼み込んでいるのではないのか。

 

やり手社長が発した「意外な言葉」

「すみませんねえ、遅くなりました」

気づくと、関口社長が座敷に顔を出していた。色黒でエネルギッシュな風貌を写真で見ていただけに、目の前に現れた、げっそりした男の表情が同一人物に思えなかった。

ぼくが立ち上がろうとすると、関口が、手をあげて静止した。

「先にやっていただいてよかったのに、まずは提案というところですか?」

「いや……」

「それがね、社長。資金調達はむずかしいっていうんです」

「ほう、それはどうしてですか?」

関口は意外そうな顔をぼくに向けると、おしぼりで手を拭った。

「探ってみたのですが、御社に投資しようという投資家が見つかりません」

「だから、そんなこと今さらいわれても困るっていってるんだよ! 自分の言動に責任を持ちなよ。おたくができるっていうから、お願いしたんだろ」

ぼくが説明を繰り返すと、財務課長が堪え切れなくなったのか、声を荒げた。

「まあ、いいじゃないか。せっかく来ていただいたんだ。当社の理解の足しになるかわからないが、私の話でも聞いてもらおう」

関口の落ちついた口調に、ぼくも話を聞くしかなかった。

「私は富山の貧しい漁村の生まれです。本当に小さな村で、毎年のように人口が少なくなっていく土地でした。あなたのような方には信じてもらえないかもしれませんが、人生に選択肢なんてないんです。ほとんどの人は生まれながらにして、死に方も決まってる。父や祖父の生き方を見ればいいからです。

一日の大半を海に費やす人生を、ほとんどの人がたどります。私がその道に進まなかったのは、単なる偶然です。父が病気をして、家にもいられなくなったので、外に出されました。そこで私は社会の仕組みを学んだのです」

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