# マネー戦記

「死ねというのか?」ある証券マンが取引先社長から浴びせられた罵声

東京マネー戦記【3】2007年冬
森 将人 プロフィール

「買い手」は、いるのか?

ぼくと木村は、翌日にさっそく営業チームとミーティングをしたが、やはりC社の評判は芳しくなかった。返済が延滞している顧客への強引な取り立てが報道されるなど、金融機関としてトラブルが尽きないC社の経営姿勢が嫌気されていた。

「こりゃ、あかん。あらためて提案するまでもないわ。買い手がほとんどおらんぞ」

「そうですかね……」

木村と話しながら、ぼくは本当に可能性がないか疑問を持っていた。資金繰りが厳しいといっても、新規の融資ができないだけで、足もとの事業を回していくだけなら問題はないはずだ。

「それは甘いで。こいつら、どんな訴訟を抱えてるかわからん。取引なんかしたら、変なリスクを抱え込むだけや」

「でも困ってるみたいですから、無視するのもどうかと思うんです。話だけでも聞いてあげれば」

「お前がそこまでいうなら止めんが、油断したらあかんで。どこまでも付け込んでくる連中や。とくにこのオッサンは、相当のやり手らしいからな」

木村が、関口社長の顔写真を差した。

ぼくは、創業者としてC社をここまで大きくした男がどんな人間なのか興味があった。また、先方をもう一度訪問したところで、資金調達を確約するわけではない。木村が過度に警戒する意味がわからなかった。

 

いきなり座敷に通された

自分の判断が甘かったことに気づいたのは、約束の時間に先方のオフィスに到着したときだった。木村に予定があったので、今回はぼく一人で訪問していた。前回の経験もあり、場所は保養所ではなく本社オフィスにするように、こちらからお願いしていた。

エレベーターから降りると、広報部長にいきなり案内されたのは座敷だった。接待用に用意した部屋なのだろうか。都内の有名な寿司屋の看板が立てかけてあった。

「お腹が空いたでしょう。まずは召し上がりませんか?」

「いいえ、結構です。今日はご説明に来ただけですから」

「そういわれると、私が関口に怒られます。私の顔を立てると思って、こちらにお座りいただけませんか」

広報部長の言葉に、ぼくは渋々、靴を脱いだ。隅の席に座るのが、ぼくの示すことのできる唯一の抵抗だった。

「ありがとうございます。形だけでけっこうですから」

広報部長がビールをグラスに注ぐと、ぼくは軽く口をつけた。向かいの席には、左から、財務課長、財務部長が座り、一つ空けて広報部長が座っていた。

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「ご調達の件ですが……」

「それは、社長が来てからにしていただけますか? もう少しで来ると思いますから」

「……」

「それまで、これでも召し上がってください」

財務部長の合図で、板前が人数分のお造りを用意した。