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中国の和牛密輸「裏ルート」を日本政府が潰すに潰せない事情

カンボジアが「隠れミノ」のようだが…

中国で輸入が禁止されている和牛をカンボジア経由で密輸する「裏ルート」が活況を呈している。日本からブローカーを通じてカンボジアに輸出された和牛が、「カンボジア産」と偽られ、中国本土に運ばれている。中国人の訪日観光客の増加で、現地での和牛ニーズは高まっており、中国政府も摘発しきれないのが現状だ。

 

カンボジアが「輸出先2位」の裏事情

中国は2001年に日本でBSE(牛海綿状脳症)が発生して以来、和牛を含む日本産牛肉の輸入を禁止しているが、実際には、同国内の日本食レストランなどで高級食材として提供されている。関係者の間では「裏ルート」の存在はかねて知られており、その代表格がカンボジアを経由したものだ。

この「裏ルート」については、昨年12月12日の記事「日本の和牛ブランドを狙う中国の『流出工作』驚きの手口」でも触れたが、改めて説明しておこう。メカニズムはいたってシンプルだ。いったん東南アジアの国へ輸出された「和牛」を、中国の業者が「カンボジア産牛肉」や「ベトナム産牛肉」として購入しているのである。

この背景にはカンボジアと中国との「蜜月関係」がある。

カンボジアは2011年以降、年7%前後で経済成長しているが、これは中国からの圧倒的な投資が大きな要因だ。中国は13年から17年までの5年間、合計53億ドルをカンボジアに投資し、現在のフン・セン政権を後押ししてきた。

同国首都のプノンペンでは中国企業による高層建築物が次々に建設されている。観光分野でも、17年のカンボジアへの外国人訪問客計約560万人のうち、中国人訪問客は約121万人で約2割を占め、20年までに200万人に達する勢いだ。

この「蜜月関係」に支えられた「裏ルート」の実態は、統計として浮かび上がる。

カンボジアは、2017年の和牛を含む日本産牛肉の輸出先として香港に次ぐ2位で、3位の米国を上回っている。しかし、09年までカンボジアへの和牛輸出量は「ゼロ」だった。それが11年に香港を抜いて突然トップに急浮上すると、12年以降は2位を維持し続けているのだ。不可解な動きと言わざるを得ない。

和牛は欧米のレストランで、100グラム当たり6000円以上の高値で提供されている。どれだけ近年のカンボジアの経済発展が著しいとはいえ、国民一人当たりのGDPは約1400ドルと米国の約40分の1程度で、平均月収は都市部で約3万円とされる。先進国でも高級品とされる和牛を、米国以上に輸入し消費していると考えるのは明らかに不自然だ。

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カンボジアが大口の輸出先となる前は、ベトナムが同様に経由地とされていたものとみられる。カンボジアの現地物流業者は、「以前経由地だったベトナムが、2010年の宮崎県での口蹄疫発生で日本産牛肉の輸入を禁止したので、カンボジアに入れ替わった。日本から輸入された和牛はカンボジア国内で消費されるのではなく、全て中国に渡っている」と断言する。

なぜ規制できないのか

日本から中国本土への「裏ルート」を通じて運ばれる和牛は、どのような過程をたどるのだろうか。実はここに、「裏ルート」の積極的な規制や摘発が難しい構造も潜んでいる。

日本からカンボジアに和牛を輸出すること自体は、もちろん違法ではない。ただ、タイなどと違い、政府間で検疫条件についての協定がないため、輸出業者はカンボジア当局と毎回、口頭で重量の表示ラベルが必要かどうかなどの通関に必要な条件について確認することになっている。

ある大手専門商社の関係者は、「カンボジアとの和牛取引には協定がないので、一見すると自由競争のように思えますが、実際は逆で、特殊なコネがないと入り込めない。例えば電話した日にはOKとされた基準でも、和牛が向こうに着いた瞬間に『基準が変わった』などと言われて没収されることもあり得ます。その場合は丸損になる。リスクが高くコンプライアンスにも抵触しかねないため、大手ならまず扱いませんし、新規参入も難しい」と説明する。