米津玄師、DA PUMP、あいみょん…国民的ヒットと日本の難題

そして世界では何が起きていたのか
現代ビジネス編集部 プロフィール

エイジアン・カルチャーの勃興

柴 アメリカでのエイジアン・カルチャーの勃興というのは、2018年の大きな世界的トピックでした。

BTSを筆頭とするK-POP勢だけじゃなく、Jojiやハイヤー・ブラザーズやリッチ・ブライアンのように88rising所属のアジア出身のラッパーやシンガーたちも人気を拡大している。

Joji〔PHOTO〕gettyimages

宇野 映画でも同じことが起こっている。シンガポールを舞台にした中国系アメリカ人が主人公のラブコメ『クレイジー・リッチ!』や、韓国系アメリカ人の家族が主人公のスリラー映画『search/サーチ』といった作品が当たり前に受け入れられている。

『オーシャンズ8』もそうだったけど、複数の主要キャラクターがいる映画やドラマでは、大体1人か2人はアジア系になってきている。ポリティカル・コレクトネスがどうこうじゃなくて、そうじゃなきゃダサいという時代になった。

要するに、クールジャパンは失敗したけど、クールエイジアな時代が完全に来ている。それは本当に大きな変化だし、日本のエンタテインメント界にとっても大きなチャンスなんだけど、日本でそれに気付いてる人はどれだけいるんだろうって思っちゃう。

柴 BTSやTWICEを、ペ・ヨンジュン、KARAと少女時代に続く「第三次韓流ブーム」のように語ってたメディアもありますからね。それは本当に何も見えていないと思ってしまう。

今起こっているのは日本と韓国の関係性の中での流行じゃなく、アメリカを中心にしたグローバルな音楽シーンの中での構造的な変化なわけですから。

川崎大助さんが現代ビジネスの記事に書いていた通り、2018年にBTSが全米1位をとったことはものすごく大きな地殻変動だったと思うんです(参照「韓流アイドルBTS(防弾少年団)に熱狂する、アメリカ社会の激変」)。

その背景には数年前からの「ブラック・ライブス・マター」のムーブメントを経て、黒人差別だけじゃなくヒスパニック系やアジア系への人種差別も問題だというムードになってきたことがある。

それを踏まえた上でラテン・カルチャーとエイジアン・カルチャーの勃興が起こっているのが今のアメリカですよね。そしてそれがグローバルに広がっている。前者の象徴がJ. バルヴィンやバッド・バニーで、後者の象徴がBTSである。

BTS(2018 ビルボード・ミュージック・アワードにて) 〔PHOTO〕gettyimages

「ローカライズ」をめぐる問題

宇野 ただ、アメリカであれだけ大ヒットした『クレイジー・リッチ!』は、期待されていた中国のマーケットでは大コケしちゃったんだよね。アメリカ人の観たいアジア人の映画と中国人の観たいアジア人の映画は違うという、なかなか教訓がある話で。

中国ではいまだにハリウッド映画の公開本数が規制されていることもあって、その限られた中国公開のハリウッド映画でどうしてアジア人しか出てこないラブコメを観せられるんだっていう(笑)。

柴 ちょっと文脈は違いますけど、TWICEに代表される日本におけるK-POPのローカライズにも通じる話かもしれませんね。中国や日本のような特殊な市場では、そのまま持ってくるんじゃなくて、加工が必要っていう。

宇野 実際に地域ごとのローカライズって、映画の世界では当たり前におこなわれてきてことだからね。インターナショナル・バージョンと製作国の国内バージョンがある映画は、昔からたくさんある。

ただ、個人的には日本向けにローカライズされたK-POPにはあまり興味がないんだよね。まあ、TWICEの場合はメンバーに日本人もいるからちょっと複雑だけど、去年、BTSと秋元康のコラボが韓国のファンの反対で中止になったという騒動もあったじゃない?

あの時に思ったのは、政治的なことはまったく関係なく、ここまで大きくなったBTSに今さらローカライズする必要があるのかなっていう単純な疑問で。

〔PHOTO〕gettyimages

柴 その後、BTSは『Mステ』への出演中止があって、結局、その後に年末の音楽番組でも軒並み出演しませんでした。もちろん原爆Tシャツやナチスの意匠が問題あるのは事実だし、だからこそ事務所側から公式に謝罪文が出たわけですけれど。でも、単純に「見たかった」という気持ちはあります。

宇野 あの件では個人的に炎上しちゃったからあまり触れたくないんだけど、一部の声の大きな人たちの苦情によって物事が変わってくっていう、ここ数年アメリカやヨーロッパで起こってきたことが、日本でもこうして起こっちゃうんだなっていうのがショックだったんだよね。

というのも、2017年でも2019年でもなく、2018年のあのタイミングでBTSが『Mステ』で複数の曲をパフォーマンスするっていうのは、間違いなく日本にとって大きなカルチャー・インパクトのあることだったから。

残念ながら、その機会は永遠に失われてしまった。原爆Tシャツに問題があることには異論はないけど、自分は政治と文化だったら文化の側に立っているので。

韓国「芸能文化政策」の圧倒的成果

柴 ただ、先日も今年のコーチェラでチャイルディッシュ・ガンビーノがトリを務める初日のかなり大きめなスロットでBLACKPINKが出演することが発表されたばかりですし、2019年もK-POPの世界的な躍進が止まることはないですよね。

宇野 そうだね。BTSはニッキー・ミナージュやスティーブ・アオキと一緒にやってるし、BLACKPINKはデュア・リパと一緒にやってる。K-POPのアーティストは当たり前にグローバルなトップアーティストとのコラボレーションのネットワークに入っている。

宇多田ヒカルが新曲「Face My Fears」でスクリレックスと一緒にやってたりと、日本にもそういう流れがないわけじゃないけれど。

柴 コラボやフィーチャリングをどれだけ効果的にできるかって、今のストリーミング以降の音楽環境においてはすごく重要なものがありますよね。トップアーティストにフィーチャリングされることでニューカマーがブレイクする流れが続いている。

宇野 K-POPのアーティストはそれに成功したし、そのネットワークに自然に入ったのがすごいことなんだよね。だから当然、この流れは続く。それはBTSやBLACKPINKの運営だけじゃなく、10年以上の年月をかけた、韓国の芸能文化政策の成果でもあって。

その一方で、日本は同じ時代にクールジャパンって言って税金をズブズブ使って無駄にしてきた。その差はもう歴然とあらわれてしまった。それはもっと長いスパンで映画の世界でもあらわれていて。

文化に勝ち負けはないとしても、少なくとも国の文化政策としては100対0ぐらいで負けたわけ。それをまずは認めないとね。

柴 ただ、誤解のないように言っておくと、日本のコンテンツ自体はとても魅力的だったと思うんです。

きゃりーぱみゅぱみゅとかBABYMETALとか、ボーカロイドもそうだし、世界でも日本にしかないユニークなポップカルチャーが沢山生まれたのが2010年代の成果だった。それは今でも続いていると思います。

コーチェラにはPerfumeも出演しますし、それに、たとえば声優やVチューバー周辺のカルチャーにも面白いものが沢山生まれている。そういう意味でのクールジャパンの成果はあった。

でも、国の文化政策としては、それを海外に通用するソフトパワーとして広めることはできなかった。ここに関しては、正直、反省して一回出直したほうがいいと思いますね。

宇野 うん。コンテンツに力があるのは事実なんだから、ここから日本はどうするのかって話だよね。映画でも音楽でも、20世紀までの日本のカルチャーがアジアの中で圧倒的にリードしていたのは事実なわけだから、その遺産に誇りは持ちつつね。