「イスラームには法人がない」という考えから見える、この世界のこと

橋爪大三郎の「社会学の窓から」⑥
橋爪 大三郎 プロフィール

イスラームには主権国家すら存在できない

Godはやがて、世界を滅ぼし、人びとを裁く(最後の審判)。そのとき、人間のつくった家族も、株式会社も、主権国家も、残らず解散する。そして、家族や会社や国家の一員として、隣人愛を実践しましたか、と責任を問われる。株式会社や主権国家は、Godの意思を実現する限りで、「正しい」のだ。

こう考えたキリスト教徒は、近代化を進めやすい。経済も政治も、軍事も強くなった。だから世界を支配できた。

 

イスラームで、正しい政治を行なったのはムハンマドだ。ムハンマド亡きあとは、カリフ(またはイマーム)が、後継者となった。でもそれも絶え、空位が続いている。代わりを務めるスルタンやアミール(ローカル政権)は、正統性のない政府。失政があれば、背教者だとして、打倒されてしまう。

イスラームには、主権国家が存在してよい、というロジックがない。そこで、血縁にもとづく部族制で行くか、西欧をまねて無理やり国家をつくるか、どちらかになる。どちらにしても、すっきりせず、国内に不満が蓄積する。

イスラームが近代化にもたつくのをいいことに、キリスト教徒は好き勝手にふるまってきた。グローバル化が進むいま、これまでのように、イスラーム世界に矛盾をしわ寄せすることはできない。

自立に向けたイスラームの悩みを、世界も共有すべきなのである。