東大生やその母親が語る「合格体験記」の信頼性が高くない理由

もっともらしく聞こえるが…
畠山 勝太 プロフィール

②逆の因果関係

逆の因果関係も比較的認知度が高いものである。これは、ある教育によって子供が東大に入学するのではなく、東大に入学するような子供・家庭・学校だから、その教育が行われる・可能になる、という因果関係が逆転しているものを指す。

私が最近目にしたものだと、東大生の多くがピアノを習っていたからピアノは学習効果が高いというニュース記事に対して、多くの人が、それはピアノを購入して習わせることができるぐらい裕福なのだから東大に入学したのだろう、とツッコミを入れていたが、正にこれである。

逆の因果関係は二重に「東大合格体験記」を難しくする。

一つには、ピアノの事例は分かりやすかったが、かなり分かりづらい方法で実際には効果がないものを効果があるように見せてしまうケースが存在する点である。

もう一つには、逆の因果関係として有名になり過ぎたが、実際には逆ではなく普通の因果関係であるケースが存在する点である。

これの代表例は朝食だろう。因果関係ではなく相関関係という、頭がよく見えてしまう言葉の流行によって、「朝食を食べる子は成績が良いのではなく、成績が良いような家庭環境の子供ほどちゃんと朝食をとる、これは因果関係ではなく相関関係だ」という議論をよく見かけるようになった。

しかし、この分野のレビュー論文を見ると、たしかに何もコントロールしないと効果量に上方バイアスがかかるが、特に貧困層の子供を中心に実際に朝食の摂取は学力向上に効果がある、という議論が一般的だ。

このように、逆の因果関係は、本当は効果がない「東大合格体験記」を効果があるようにも見せてしまうし、実際には効果がある「東大合格体験記」をガセネタ扱いすることもあり得るので、ここで紹介する要因の中では最も難しいものかもしれない。

〔PHOTO〕iStock

③欠落変数バイアス(第三の要因)

欠落変数バイアスは、考慮していない第三の要因が、「教育成果」と「ある教育施策を受ける・受けない選択」の両方に影響を与え、実際はその考慮していない第三の要因が教育成果をもたらしているのに、あたかもその教育が成果をもたらしたかのように見える現象を指す。

これはおそらく最も馴染みが深いものかもしれない、なぜなら、環境か遺伝か、というよく聞く教育議論はこの欠落変数バイアスそのものだからだ。

 

「東大合格体験記」に実際には効果がなく、遺伝の力によってその子供が東大に入学していたとしても、この遺伝の力というのが可視化しづらいがために、あたかも「東大合格体験記」が子供を東大に入学させた効果があったかのように見えることは、東大生の保護者の教育水準を考えれば、ある程度あり得ることだろう(「遺伝か環境か?ゲノム科学と社会科学の融合が教育界にもたらすイノベーション」という記事に目を通すことをおすすめする)。

遺伝はあくまでも代表的な欠落変数バイアスで、他にもさまざまな第三の要因が挙げられる。東大生の母親が語る教育論からは学校要因が欠落しているし、エリート学校の教員が語るそれには家庭要因が欠落していることがしばしばである。

このため、結局何が本当に効果があったのかよく分からないカオスな状況が存在している。

また、化粧品のCMでよく見かける使用前・使用後の単純な比較のような、ある教育の実施前・実施後の単純な比較も同様の理由によりアウトである。

なぜならその教育には実際に効果がなくても、その教育が行われた期間に、教育成果を向上させるような他の出来事――例えば教育官僚や校長が変わる、タワーマンションができてその地域の社会経済状況が激変する、他の教授法的な改善が起こる――が発生して、それによりその教育にあたかも効果があったかのように見えることがあるからである。

さらに、残念ながら失われた30年のドツボにハマる現在の日本には当てはまりが悪いが、経済成長が続く国では同時性バイアスという、欠落変数バイアスの一種に気を付ける必要がある。

社会経済状況の改善により子供の学力が向上し続けている社会では、その向上分を上回るほど子供の学力を下げる教育でない限り、実際に効果はなくともあたかも効果があったかのように見えてしまう。

以上の3つが「東大合格体験記」をもっともらしく聞こえさせる代表的な要因である。

今後、「東大合格体験記」を見かけたときに、主張されている教育論が本当に学力を向上させたのか、それとも別の要因によるものなのか、考えるための一助になるはずである。

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