元経済ヤクザが分析「米中代理戦争は、この地で起こる可能性」

私のもとには、彼らの悲鳴が届いている
猫組長(菅原潮) プロフィール

アメリカが中東戦争を望む理由

まず今回の撤退を、最も苦々しく思っているのが、イランと中東の覇権を争うサウジアラビアだ。前提になっているのは、サウジはスンニ派、イランはシーア派というイスラム教内の宗教対立である。

イエメンにおいてはイランが反政府組織「フーシ」を、サウジアラビアが現政権を支援している。15年にはイエメン大統領辞任に伴い、フーシが全土を実効支配した。直後に成立した暫定政権を支援する目的で、サウジがフーシを空爆。16年からフーシは、イエメン内サウジへのミサイル攻撃を始め、今年3月には首都リヤドに着弾し死者も出た。

健康問題を抱える国王に代わってサウジの国政を取り仕切っているのが、後継者、ムハンマド皇太子(33)だ。17年からは資金洗浄などを理由に、300人以上を逮捕し権力を揺るがないものにしている。15年のフーシ空爆は、当時、国防大臣だったムハンマド皇子の判断によるものだ。

 

そのムハンマド皇子は、禁止されていた女性の自動車運転を認めるなど、アラブ社会の革命児とされている。だが、18年3月にテレビのインタビューで「サウジアラビアは核爆弾を持つことを望んでいないが、イランが核兵器を開発すれば、それに従うことになる」と核武装も辞さないことを表明した。

同年には、トルコのサウジアラビア領事館内で、ジャーナリストのカショギ氏を自身のボディーガードを使って殺害した疑いがもたれるなど、非常に好戦的な素顔を持つ「王」だ。

イエメンの代理戦争で、サウジ・イラン間の緊張がこれ以上ないほど高まっている中で行われたのが、アメリカのシリア撤退だ。アメリカの経済制裁が、反米感情が強いアラブ社会では逆バネに機能していることもあり、イランの影響力はレバノンやイラクへとますます拡大している。サウジアラビアはシリアにおいても、イランに対抗して反アサド派を支援していたが、撤退によってまた影響力を失うことになった。

中東社会では、イランによるサウジアラビア包囲網が出来上がりつつある。追い詰められたサウジがイランに対して実力行使にでる下地は充分になった。イラン富裕層の亡命希望は、ニュースに流れない中東社会の生の声だと私は受け取っている。

戦争経済という悪魔の果実

さて、この戦争を最も喜ぶ国がアメリカだ。深刻なのはFRBが利上げをしても金利が上がらないこと。その大きな原因は、アメリカ国内に投資先がないことだと私は考えている。グローバルサプライチェーンの拠点を、中国からFTAを軸に構築した経済圏に移したいのがアメリカの思惑だが、現実が追い付かないのだ。金融不安の気配も出てきており、持ち直しの「材料」は喉から手が出るほど、欲しい状態だろう。

トランプ氏は17年にサウジを訪れた際に、対イランを目的に、サウジを中心とする「中東版NATO」構想を発表。直後にムハンマド皇子が、約12兆円もの武器をアメリカから購入する契約を結ぶなど、武力を軸にした両者の関係は蜜月だ。サウジとイランの戦争が、現在のアメリカにとって大きな利益になることは間違いない。

中東へのエネルギー依存が高い日本は、この地域での戦争が起こればたちまち危機となる。シェールガス開発でエネルギー輸出国になったアメリカにとって、石油に代わるエネルギーを求める日本マーケットへの進出を夢見てていることも間違いないといえるだろう。

こうして整理をすれば、シリア撤退は単に軍事費削減を目的としたものではなく、サウジとイランの緊張を誘発する意味も含まれているという視点は、それなりの説得力があると私は考えている。人命を金に換える――この究極の拝金主義的なトランプ氏の考え方に、理性的で知的なマティス氏が嫌気をさして辞任した……そう見るのが正しいのではないだろうか。

現在。具体的な動きは確認されていないが、ユーラシアの西側に国際戦略の重心を置くと決めた中国がここに関与してくれば、中東を舞台にした新たな代理戦争へと展開するだろう。新年早々悲観的な話になってしまうが、2019年も世界再編による混乱は続く、と私は見ている。