ところが、こちらもラテン語として不自然だったので、1999年に別の研究者らによって「Abrosaurus dongpoi」に訂正される……という、「文雅」とは程遠い経緯をたどった。命名のゴタゴタのせいか、現在でもアブロサウルスの知名度は非常に低く、中国語のネット検索でもあまり情報は出てこない。
李白に対抗して蘇軾を持ってきたものの、残念ながら名前負け。漢字名はカッコいいのに、なんともガッカリ感のある恐竜であった。
引き続き、漢字名がものすごい中国恐竜を2種紹介しよう。
中国最西部・新疆ウイグル自治区で発見されたティエンシャノサウルス・チタイエンシス(Tienshanosaurus chitaiensis:奇台天山龍)と、ティアンチサウルス・ネデゴアペフェリマ(Tianchisaurus nedegoapeferima:明星天池龍)だ。
天山龍vs天池龍。見るからにタダモノではなさそうな対決だが、天山と天池はそれぞれ新疆の区都・ウルムチの郊外にある景勝地の名前である。
天山龍ことティエンシャノサウルスは、ジュラ紀後期に生きていた体長10メートルほどの竜脚形類だった。報告は1937年と、中国の恐竜としては最古参格。種名の「奇台」は奇台県という地名にちなんだものである。
もっとも、ティエンシャノサウルスはどうやらマメンチサウルスの仲間だったらしいのだが、残念ながら化石の保存状態が悪く、詳しいことはよくわかっていない。
いっぽう、天池龍ことティアンチサウルスはジュラ紀中期(もしくは白亜紀前期?)の原始的な曲竜の仲間で、体長は3メートルほど。報告者である董枝明(Dong Zhiming)の論文(Dong〔1993〕)によると、尾の先には尾椎が癒合してできた小さなハンマーがあったという。
こちらの発見は1974年だが、論文に記載されたのは1993年。
「nedegoapeferima」という奇妙な種名は、当時の人気映画『ジュラシック・パーク』のS.スピルバーグから提案を受け、映画に登場するベテラン俳優たちの名を組み合わせて付けられた。