Photo by GIRLY DROP

食欲、それは脳が生み出す極上の快楽──「脳と料理」の特別講義

体重と関係なく「食べたくなる」理由

先日、テレビで「あなたは、目玉焼きにソースをかける派ですか、醤油をかける派ですか?」という議論がなされていた。だがフランス流にいえば、これはどちらもおかしいということになりそうだ。

以前、フランス人から聞いた話だが、「冷奴に醤油をかける」のは(フランス料理流にいえば)正しいが、「サンマに醤油をかける」のはおかしいのだそうだ。

フランス料理には300種以上のソースがあり、基本的にメインとなる食材にはそれと同じ系統の材料から作られたソースが添えられる。たとえば牛肉にはフォン・ド・ボーなどをベースとしたソースをつかう。

だから、大豆を原料とした豆腐に同じ大豆から作った醤油をかけるのは正しいが、魚に醤油をかけるのはおかしいということになるのだ。

フランス料理には実にいろいろな哲学がある。たとえば、材料となる素材がもともともっている成分をすべて料理に生かし切ることが重要とされる。だから日本料理にみられるような「臭みを抜く」ための湯通しや、水にさらしたりする技法は用いない。臭みがあればハーブなどを添えてそれさえも生かすという考え方なのだろう。

グラタンの基本となる調理法「グラタン・コンプレ」では、すべての食材は生のままソースの中に閉じ込められてから、火がすべての素材にほどよい加減で通るまでオーブンで焼かれる。このときにソースの表面にこんがりと焦げ目がつくことになる。

生の素材から調理することで、素材のもつおいしさを構成する要素はすべて、ソースの中に閉じ込められたまま供される。

また、肉や魚をソテした場合は、そのフライパンの中にワインを注いで、肉から外に出てしまった肉汁をブイヨンやワインの水分によって「回収」して調味料で味を調え、ソースとして供される。「デグラッセ」という基本的な手技である。いかに素材のもつ要素が大切にされているかがわかると思う。

 
人はなぜお腹がすくのか?
飢餓を克服した人類がそれでも空腹をおぼえるのは、脳のしわざだった。食欲のメカニズムを解き明かす!
 

現在のようなソフィスティケートされたフランス料理の原型は、ルネッサンス時代のイタリアから入ってきたものだという。

意外に歴史は浅いのである。パリの昼下がりを散策していると、彼らがいかに料理を大切にしているかがわかる。昼でもゆったりと時間をとり、おいしそうな皿を前にして会話と食事を楽しんでいる。食べ物の話になると生き生きと目を輝かせる。彼らがフランス料理を急速に発展させたわけがよく理解できる。