死に至る病「エボラ」から世界を救う…日本人ウイルス学者の奮闘記

あの恐怖から5年
萱原 正嗣 プロフィール

すなわち、流行発生地域の近くで診断を下すことができず、疑い患者から採取した血液サンプルを何時間も、ときには数日もかけて首都まで運ぶ必要があった。

そこで専用装置を作動させてから、診断結果が出るまでにさらに数時間を要する。その間に、疑い患者がさまざまな人と接触し、感染を広げてしまうことがあった。

「感染拡大を防ぐうえで大切なのは、最初の症例を早く正確に見つけて適切な対処をすることです。エボラウイルスの場合は、感染者を隔離すればウイルスの拡散を防ぐことができます」

髙田教授らが開発したキットは、診断にかかる所要時間を劇的に短縮したのが特長だ。正確性こそ専用装置より劣るものの、15分で結果を知ることができる。

電源不要で持ち運びも可能なため、電源インフラが不安定な地域でも、迅速に診断を下すことができる。

操作も簡単で、どこでも誰でも扱うことができるので、現地の医療従事者から、非常にありがたがられているという。

キンシャサの市場で見た光景

髙田教授はコンゴ民主共和国の首都キンシャサの市場で、ある驚きの光景を目にしたという。2016年5月に、事前視察のために初めてこの地を訪れたときのことだ。

そのときの光景を、髙田教授の初の著書『ウイルスは悪者か お侍先生のウイルス学講義』で次のように著している。

 

<市場の外れで車から降りることを許され歩いていると、ある光景に目が釘付けになった。ある露天商が、1頭のサルを丸焼きにして売っていたのだ。

現地の人はサルの肉も食べる(けっこう美味いらしい……)。それが、エボラウイルスの感染経路になっている可能性は十分にある。事実、過去にはサルから直接感染したことが疑われる事例が報告されている。

さすがに、加熱処理をすればウイルスも死滅するだろうが、生きたサルを扱う露天商が、サルの血や体液に触れることもあるはずだ。そのサルが、ウイルスに感染していたとしたら……。

ましてや、熱帯雨林に点在する村々では、より濃厚に、人間がサルやその他の野生動物と接触していると聞く。こうした当地の風習が、コンゴ民主共和国をエボラ出血熱多発地帯にしているのではないか……。その可能性を、肌で感じた瞬間だった。>

髙田教授は、エボラウイルスの存在がザンビアよりもはるかに人間社会に近いコンゴ民主共和国でも、ウイルスの自然宿主探しに取り組む予定だ。

「エボラウイルスの自然宿主を突き止め、ウイルスの生態も明らかにしていきたい。また、開発した診断キットを活用し、流行の発生や拡大を防ぐ診断体制の構築を支援したい。現地に適した診断法の開発にも取り組んでいく予定です」

そう語る髙田教授は、自身がエボラウイルスに感染するリスクなど歯牙にもかけていないようだ。

むしろ、エボラウイルスと直接向き合える可能性があることを、喜んでいるように見えた。

髙田礼人(たかだ・あやと)
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授。1968年東京都生まれ。93年北海道大学獣医学部卒業、96年同大獣医学研究科修了、博士(獣医学)、97年同大獣医学研究科助手、2000年東京大学医科学研究所助手、05年より現職。07年よりザンビア大学獣医学部客員教授、09年より米NIHロッキーマウンテン研究所の客員研究員に。専門は獣医学、ウイルス学。

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