死に至る病「エボラ」から世界を救う…日本人ウイルス学者の奮闘記

あの恐怖から5年
萱原 正嗣 プロフィール

実は、ザンビアではこれまでエボラ出血熱の発生は確認されていない。

エボラウイルスの生態域と考えられているのは、サハラ以南のアフリカ熱帯地域。アフリカ中部のコンゴ民主共和国や南スーダン共和国などが多発地帯である。大惨事に発展した2014年の西アフリカでのアウトブレイクは、発生地域としてはむしろ例外的だ。

過去にほとんどエボラ出血熱の流行がなかったからこそ、初動対応が遅れて感染が広がったと考えられている。

だが、目に見えない微生物が病原体となる感染症に国境はない。ましてや、動物が病原体を運ぶ人獣共通感染症ならなおさらだ。

アフリカにおけるフィロウイルス感染症の発生

ザンビアの隣国・コンゴ民主共和国は、1976年にエボラ出血熱の発生が初めて確認された地域であると同時に、エボラ出血熱の最多発地帯である。「エボラ」の名は、同国北部を流れるエボラ川に由来する。

コウモリがウイルスを運んでいるとすれば、国境を超えてウイルスがいつザンビアにもたらされても不思議ではない。

 

「自然界の動物の動きを人間がコントロールすることは不可能ですが、人獣共通感染症の脅威から人間社会を守る有効な手立てはあります。

ウイルスが動物のあいだでどれほど感染を広げているか、感染状況を継続的にモニタリングすることです。それは、流行の発生や拡大を食い止める重要な手掛かりになりえます」

それにはまず、自然宿主が何かを突き止める必要がある。

2005年当時も2018年時点も、エボラウイルスの自然宿主は未解明のままだが、その尻尾をつかむため、髙田教授は今日までアフリカのジャングルや洞窟を訪ね続けている。

15分で感染がわかる「診断キット」

2018年8月、髙田教授はコンゴ民主共和国の首都キンシャサを訪ねていた。

ザンビアでの国際共同研究を継続・発展させる形で、2019年からコンゴ民主共和国の研究機関とも共同研究を始めることになった。その調印式のための渡航だ。

1996年にエボラウイルスの研究を始めて以来、いつかは訪ねることになるだろうと思っていたエボラ出血熱の「始まりの地」が、ついに研究のフィールドに加わったのである。

ちょうどそのころ、同国ではエボラ出血熱のアウトブレイクが起きていた。4月から散発的に確認されていたエボラ出血熱の患者が7月下旬に入って急激に増え始め、8月時点で44人の死者を含む77人の患者が確認されていた。

その後も流行が継続し、2018年12月27日時点では306人(確定例)が命を落としている。

現地でエボラ出血熱の診断に使われているのが、髙田教授らが開発した「エボラウイルス迅速診断キット」である。

現地の関係者にエボラウイルス迅速キッドを渡す高田教授

通常、エボラウイルスに感染しているかどうかの確定診断には、遺伝子検査装置を使用する。

診断は正確だが、過去にコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生してきたのは、主に首都から遠く離れた地方でのこと。高価な装置を導入するのが難しいばかりか、電源インフラさえ未整備あるいは不安定な地域だ。