死に至る病「エボラ」から世界を救う…日本人ウイルス学者の奮闘記

あの恐怖から5年
萱原 正嗣 プロフィール

「一番の感染リスクは、コウモリに噛みつかれたり引っかかれたりすることです。そういう意味では、採血作業がいちばんの緊張を強いられます。

麻酔で眠らせるとはいえ、なかには麻酔の効きが弱く、作業中にコウモリが動き出すこともあります。

また、手元が狂って注射針を指に刺してでもしまおうものなら、そこから何らかの病原体が感染するリスクもあります。

ですが、万が一、捕獲や採血の際にコウモリと接触したり、注射針を刺してしまったりしたとしても、そのコウモリが病原体を持っているとは限りません。

ウイルスを持っていなければ感染リスクはゼロですし、ウイルスを持っていた場合でも、感染が即、発症や死に到るわけではありません。

感染しても発症しないケースもありますし、発症しても自分の免疫機能で回復する可能性もあります」

コウモリの血液を採取する高田教授

こうした論理の帰結として、『そう簡単には自分は感染しないし、感染しても死ぬことはないだろう』という結論に至っている。

洞窟とジャングルでの「あわや」の体験

感染や発症が確率論であるというのはそのとおりだろう。だが、どんな病原体を持っているか分からない、ましてや「死に至る病」のウイルスを持っているかもしれないコウモリと、平然と向き合う髙田教授は筆者から見れば「鉄の心臓」の持ち主に映る。

だが、そんな髙田教授も、コウモリ捕獲中に「あわや」と思ったことがあるという。

 

「冷や汗ものだったのは、洞窟でコウモリを捕まえようとしたときのことです。

洞窟の奥へ奥へと一人で進んでいるうち、帰り道が分からなくなってしまいました。もちろんヘッドライトは装着していましたが、洞窟内は真っ暗で方向感覚が失われてしまいました。

『ここで息絶えるのか……』と恐怖が頭をよぎり始めたころ、後続隊のヘッドライトが見えて一安心。

それ以降、洞窟の中を進むときは、より慎重を期すようになりました」

はじめてザンビアのジャングルを訪ねたときには、こんな一幕もあった。

「アフリカの赤道周辺でだけ流行が確認されている『アフリカ眠り病』という感染症があります。発症して症状が進行すると昏睡状態に陥って死に至る、治療法のない難病です。

この病原体を媒介するツェツェバエに、何箇所か刺されました。

フィールドワークのときは決まって青色の服を着ていくのですが、ツェツェバエが青色を好んで集まってくるようで……。

同行者にアフリカ眠り病の研究者がいて、彼はそのことを知っていたのですが、事前に教えてはくれませんでした。

彼はツェツェバエを捕まえたかったがため、私をおとりにしてツェツェバエをおびき寄せていたようです(苦笑)。

彼いわく、そのジャングル周辺では過去に病気の発症は確認されていないとのこと。私も感染リスクはないだろうと平然としていました」