ペットと触れ合っていると心が休まり、朗らかになる。だが、愛しのペットを残して、先に死んでしまうとしたら。その心労で癒やしどころではない。備えあれば憂いなし。今から準備しておこう。
「昔は寿命なんて考えたこともなく、飼っている犬は自分が看取るものだと思っていました。
でも今は違います。4年前から飼い始め、わが子と思っているリリとベベ(ヨークシャテリア・メス5歳)との生活がいつまで続くかは神のみぞ知ること。私の身に明日、何が起こるかわかりません。
私が先にいなくなったら、もちろん、家族が後の世話はしてくれるでしょうけど、万が一、うまくいかず、誰かの手に渡ってしまったら、かわいそうだなと思います。名前が変わってしまったら戸惑うでしょうし……」
こう話すのは、ドラマ『銭形平次』での妻お静役で有名な香山美子さん(74歳)。昨年亡くなった夫、三條正人氏への誕生日プレゼントとして生まれたばかりの子犬を迎え入れた。
「この子たちを飼うときは、自分の年齢を考えずに飼ってしまいました。私も主人も犬とともに暮らしてきましたから、犬がいない生活なんて考えられなかったんです。
だから、35歳の息子には、私に万が一のことがあったときはリリとベベの世話をしてくれるように話しています。もちろん、息子は了承してくれています。ただし、息子の家族が反対したらどうなるか……。
息子はまだ独身ですから、もしこれから結婚するのであれば、犬を愛してくれる人じゃないと認めないと言っているんです(笑)」
子供が独立して家を出たり、伴侶に先立たれたりした後、ペットが人生を支えるかけがえのない存在となる。こういう人は多いだろう。
一方、自分の身に健康上の不安が訪れたときに愛するペットはどうすればいいのか、不安に感じる人もまた多いはずだ。
動物臨床医学会での報告によれば、ペットを遺棄する人は60代以上が56%を占めるというデータがある。原因には、突然死による遺棄、がんや認知症、老人ホームへの入居によって飼えなくなったことが挙げられる。
捨て犬・捨て猫の保護などを行う認定NPO法人「日本レスキュー協会」の安隨尚之氏が言う。
「ここ数年で、高齢の方が飼われていた、引き取り手のないペット数が増加していると実感しています。医療技術が発達し、人間の寿命は延びていますが、ペットもまた長寿傾向にあります。
本来であれば、ペットを飼う際には5年先、10年先の自分の体力や経済力を念頭に家族と熟考を重ね、終生飼育する責任を考えた上で、飼うかどうか決定することが正しい選択だと思います。
しかしながら、現実はそうではありません。利益優先で高齢者にも簡単に販売するペット業者も数多くいるでしょう。かわいいからといって購入しても、飼い主が病気になったり、入院したり、最悪の場合、先に亡くなることもあります。
そんなとき、大切な家族であるペットをどうするのか。お子さんや兄弟親族が引き取れなかった場合に誰が世話をするのか。それらを見据えた上で、ペットの購入を考えてほしいと思います」
飼い主が亡くなり、引き取る人がいなければ、ペットは保健所に引き取られる。そこで新たな引き受け先が見つからなければ、最終的に「殺処分」されてしまう。
近年、「殺処分ゼロ」を掲げる自治体も増え、殺処分率は大きく低下しているが、それでも昨年度は10万匹の犬・猫が保健所に引き取られ、その43%が殺処分された。
わが子同然に愛したペットが、自分の死後、悲惨な最期を遂げる。これでは死んでも死にきれない。では、生きているうちに何ができるのか。