役員の数が半分以下に…トヨタ自動車「2019年人事」を読む

「驚きの改革」の核心
井上 久男 プロフィール

実際にこの1月の人事では、課題への対応とプロの起用が目立った。

注目すべきは、現専務で執行役員として残る小川哲男・北米本部副本部長に、渉外広報本部副本部長を兼任させたことだ。小川氏は米国トヨタ自動車販売や中国統括会社での経験が豊富で、米中二大自動車市場のプロだ。

「新執行役員」人事にも変化

来年1月から日米間で始まる予定の「物品貿易協定(TAG)」の交渉では、トランプ米大統領は日本の自動車産業、特にトヨタを槍玉に挙げる可能性がある。

'10年に大規模リコールの問題などでトヨタが米国政府から叩かれた際は、広報や渉外対応が後手に回った。その主要因は、本社と米国法人のコミュニケーションの悪さだった。

さらに、トヨタは中国での事業拡大を狙って、現在は120万台の生産台数を'20年頃までに200万台に引き上げる。

今夏頃までは、一気に中国への投資を加速させる計画だったが、「対中投資をし過ぎると米国に睨まれる可能性があるので、今は米中摩擦の様子を窺いながらの状況になっている。しかも中国案件は派手に発表するな、との指示も出ている」(トヨタグループ幹部)。

小川氏の人事は、米中の政治に巧みに配慮しながら、メディア戦略も調整するための人事と言えるだろう。

 

もう一つ注目したいのは、常務役員の宮崎洋一氏を執行役員として残したことだ。トヨタのグローバル販売計画台数を立案する経験が長い。

最近のトヨタは、持続的な成長を志向し、年輪のように収益を重ねる「年輪経営」を重視してきたことから、台数の伸びに無関心になりつつあった。しかし、巨額の研究開発・設備投資を回収するには、台数成長が重要との方針に切り替わった。

こうした中で宮崎氏の能力が買われて残留、昇格となった。トヨタ幹部には有名大学出身者が多いが、宮崎氏は神奈川大出身。豊田社長が言う「学歴を問わない」起用だ。

豊田社長は今年5月の決算発表でこう語った。

「'09年6月に社長に就任してから(中略)トヨタという巨大企業のドライバーズシートに一人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに、お決まりのコースを速く走らせようとしていた気がするのです。

その中で感じていたことは、成功体験を持つ巨大企業を変革することの難しさです」

巨大企業を変えるために、新たな人事制度をどう使いこなすのか。経営者の力量が試される。

井上久男(いのうえ・ひさお)
64年生まれ。大手電機メーカーを経て、'92年に朝日新聞社に入社。経済部で自動車や電機産業を担当し、'04年に独立。著書に『トヨタ 愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)など

「週刊現代」2018年12月22日号より