役員の数が半分以下に…トヨタ自動車「2019年人事」を読む

「驚きの改革」の核心
井上 久男 プロフィール

「超二流」であれ

有能な若手を抜擢しやすくするという点では、今回の制度改革は有効ではないかと筆者は見る。

トヨタの大卒社員は、評価が高い人なら、30代後半で基幹職3級に昇格して管理職になる。そこから3級→2級→1級→常務役員という出世の階段を上っていくわけだが、昇格の梯子を一段上るには標準で4~5年ほどかかる。

すると、現行の制度の下、30代後半で3級に昇格してから常務役員までには3つの梯子を上ることになるので、最低でも十数年はかかってしまう。このため、常務役員就任は50代前半というパターンが多かった。

ただ、トヨタの大卒で1級に昇格できるのは全体の10%程度で、常務役員はさらに狭き門だ。ほとんどの大卒は2級で終わってしまう。部署ごとに1級昇格の枠が決まっているため、優秀な人材でも「枠の壁」のせいで1級に昇格できなかった。

しかし、今回の人事制度改革で2級から常務役員までを統合してしまえば、昇格の梯子が減り、有能な若手を抜擢できる。

たとえば、38歳で3級に昇格した人材が、能力と実績次第では、40代前半で幹部職に昇格し、これまで常務役員が担当していたポストに就くことも可能になるのだ。

自動車産業が大きく変わろうとしていることの一つに「クルマのスマホ化」がある。

クルマから得られるビッグデータから様々なビジネスチャンスを創出していかなければならない。クルマの位置情報と移動ニーズを結びつけるライドシェアなどのサービスはその典型の一つだろう。

今年10月、「相性が悪い」と囁かれていたソフトバンクグループに対して、トヨタは自ら申し込む形で提携を結んだ。次世代技術で手を組む考えだ。ソフトバンクの現場は若い。

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全日本空輸(ANA)と共同で、羽田空港での旅客輸送バスの自動運転プロジェクトを始めている子会社のSBドライブ社長ら中核メンバーはみな30代だ。30代に権限を委譲している。これに対して、トヨタは50代が意思決定している。

今後も、勢いのある異業種やベンチャーとの連携は増えていくだろうが、技術革新の早い新たな領域で「50代のおじさん」がもたもた意思決定しているようでは、30代の斬新な発想や行動力についていけないという危機感もあったはずだ。

ただ、トヨタ社内にはあまりにも急進的な改革と映ったのか、新制度に批判的な声があることも事実だ。トヨタ系部品メーカーの役員は、11月30日に役員人事が発表された後、トヨタ社内で複数の幹部らがこう話しているのを聞いたという。

「トヨタに入社して今は人工知能関連の子会社に出向している豊田社長の息子は30代前半。息子を早く出世させて役員にするために昇格の梯子を減らしたのではないか」

また、別のトヨタ関係者は「この制度は明らかに賃下げを狙っているし、出世が生きがいだったトヨタマンはやる気を失う」と語る。

さらに辛辣なのは、「役員をここまで減らしたのに、社長と副社長の7人の人事は何も変わっていない。豊田社長は『七人の侍』と言って今の体制に居心地が良さそうなので、変えなかったのではないか」(トヨタ幹部)という声だ。

 

痛みを伴う人事制度改革だけに、こうした社内の批判は豊田社長にとっても想定内だったのだろう。今回、豊田社長は、旧西鉄ライオンズ監督・三原脩氏の言葉を交えてコメントを発表している。

「これだけは誰にも負けないという一芸を持っている。ひたむきにがむしゃらに努力を続け、ここぞという場面で力を発揮し、チームを救う。そんな選手を『超二流』といって、三原監督は大切にされたそうです。

自分は二流だと思うからこそ、絶えず技能や技術を磨き、ベターベターの精神で努力を続ける」

たとえ「降格」と見られようが、絶えず自分自身を磨いておいて、いざという時に戦えるように備えて欲しいというメッセージとも受け止めることができる。コメントはこう結ばれている。

「激動の時代を生き抜き、持続的に成長し続けるためには、その時々の経営課題に対し、その時々に必要となる一芸をもったその道のプロが、年齢や学歴に関係なく、縦横無尽に活躍できる企業風土をつくることが何よりも大切だ」