国際捕鯨委員会脱退を日本政府が決めるまでの「全深層」

外務省幹部は、即座に和歌山へ飛んだ
松岡 久蔵 プロフィール

もっとも、捕鯨議連の議員が政府代表団に同行することが決まり、外務省も陣容の充実を図っていた。通常は漁業室長クラスしか派遣しないところ、公明党衆議院議員の岡本三成政務官(当時)を派遣することに踏み切った。

外務省スタッフが倍増したのも、捕鯨議連メンバーが脱退に向けて想定外の発言をした場合に備え、各国に説明するマンパワーを確保するためだ。総会の最中にも、外務省側から水産庁側に、捕鯨議連メンバーや職員の発言メモの提出が頻繁に要求された。交渉に当たった水産庁関係者は「まるで監視されているようだった」と振り返る。

商業捕鯨再開を許したくない外務省の思惑は、以前から捕鯨関係者の強い反感を買っていた。捕鯨をおこなっている自治体の幹部は「外務省はこの30年間、欧米諸国を刺激したくないという考えだけで動いていた。調査捕鯨の期限が切れるのを狙って、『調査理由がないから、もう捕鯨からは足を洗いましょう』という形でうやむやにしたがっていた」と断言する。

農林水産相経験者も、「外務省は常に『来るぞ来るぞ』詐欺。国益が何かを考えるのでなくて、『国際社会から批判されますよ!』と言ってビビらせるのがお家芸です。外国のエリートを説得して目標を達成するより、国内で何もさせない方が簡単だし、リスクも少ないから。クジラの件にしても何にしても、同じですよ。いまだに対中国外交が自民党の二階俊博幹事長頼みなのが、交渉力のない証拠でしょう」と話す。

外務省はブラジルの総会のあと、「水産庁と外務省とで、対立はなかったか」という報道各社の質問に対しては、「常に政府は一体です」(幹部)と苦し紛れの一般論に終始した。

 

和歌山が地元、二階幹事長の「圧力」

この総会終了後、政治主導でのIWC脱退の動きが加速する。

直後の10月、東京・永田町の自民党本部で開かれた捕鯨議連の会合では、鈴木俊一会長(前五輪担当相)が日本提案の否決を受け、「科学に目をつぶって、自らにない文化は否定する方が恥ずべき文化であって、認めることはできない」と主張した。

浜田氏は「わが国の立場を鮮明にして、脱退も含めて考えるべきだ」とも話し、「IWC閉幕から何の方向性も示せていない現状には不満がある」として、外務省に脱退までの工程表の提出を求めた。

これに対し、出席した外務省幹部が「検討を深めている」とかわそうとすると、地元・和歌山県に捕鯨の伝統で有名な太地町がある二階氏が、「この場を逃れるために、いい加減なことを言っているとしか思えない。党をなめとる。緊張感を持って出てこい」と叱責。外務省側が縮み上がる一幕があった。

叱責された幹部は、会合の直後に片道6時間かけて太地町を訪問し、イルカの追い込み漁、捕鯨について三軒一高町長らと意見交換した。

事情をよく知る外務省関係者は、「二階氏から、現場を見てこいという圧力があった。マスコミにオープンの会合でやり玉に挙げたのは、これまでの外務省の姿勢に不信感があったからなのは明らか。二階氏から睨まれれば出世はなくなりますから、省益との板挟みに遭う幹部は、さぞ胃が痛くなったことでしょう」と振り返る。