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国際捕鯨委員会脱退を日本政府が決めるまでの「全深層」

外務省幹部は、即座に和歌山へ飛んだ

日本政府は26日、クジラの資源管理について議論する国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開することを決定した。商業捕鯨停止から30年以上、再開を訴え続けてきた捕鯨関係者や水産庁にとっては「悲願の脱退」となる。

外務省は、来年に反捕鯨国であるアメリカとの新貿易交渉を控えるほか、大阪でのG20など重要な外交日程が詰まっているだけに反対の姿勢を最後まで貫いたが、安倍政権が政治主導で押しきった格好だ。ただ当然ながら、反捕鯨国からは日本の脱退決定に反発の声が上がっている。

総会に赴いた「自民党の重鎮たち」

26日、菅義偉官房長官は談話を発表し、「保護のみを重視し、持続的利用の必要性を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られない」と、脱退の理由を明らかにした。

水産庁によると、商業捕鯨は来年7月から、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)に限定して再開される。これまで捕獲調査してきた南極海・南半球では実施しない。IWCにおいては、脱退によって総会での議決権は失うが、オブザーバーとして関係を維持する方針だ。

日本がIWCに加盟したのは、1951年。IWCは82年に資源の枯渇を理由として、商業捕鯨の「一時停止(モラトリアム)」を決定している。

日本は88年に商業捕鯨を中断したが、その前年の87年から、商業捕鯨再開に向けた科学データの収集を目的とする調査捕鯨を開始した。現在では、南極海と北西太平洋で、ミンククジラなど年間に約630頭を捕獲する。

 

商業捕鯨の中断から約30年にわたり、日本はIWCでその再開を訴え続けてきた。しかしIWCは、科学的データを根拠として商業捕鯨の再開を目指す捕鯨支持国と、動物愛護を主張する反捕鯨国の勢力が拮抗し、膠着状態となっている。

日本の提案は常に否決され続け、実現の見通しは立たなかった。水産族の自民議員は「自国の食文化が否定され続けてきた悔しさが、商業捕鯨再開の原動力になった」と話す。

今年9月にブラジル・フロリアノポリスで開かれた総会では、東京海洋大の森下丈二教授が日本人として約半世紀ぶりに議長を務めるなど、再開への機運がかつてなく盛り上がっていた。

代表団も自民党捕鯨議連から、浜田靖一元防衛相、鶴保庸介元沖縄・北方相、江島潔参議院議員(捕鯨基地のある山口県下関市の元市長)ら重鎮が出席。公明や旧民進系議員も初めて参加したほか、水産庁と外務省のスタッフも倍増させて臨んだ。

しかし、「捕鯨再開の最後の機会」と期待された今回の総会でも、日本の商業捕鯨再開の提案は否定された。この経緯は「もう脱退しかないのか? 日本が窮地に陥った『国際捕鯨委員会』の内幕」で詳しく報じたが、自民議員は「この総会が、IWC脱退に舵を切る決定打となった」と振り返る。

水産庁と捕鯨議連vs.外務省の「確執」

それにしてもなぜ、商業捕鯨再開のめどが立たないのは明らかだったにもかかわらず、日本政府がIWC脱退を決定するのに約30年もかかったのだろうか。その背景には、反捕鯨国との対立だけでなく、水産庁と外務省の確執がある。

漁業現場を所管する水産庁にとって、商業捕鯨再開は長年、達成しなければならない大目標だった。一方、対外交渉全般を担う外務省にとっては、もはや衰退した捕鯨産業に肩入れし、反捕鯨が大部分を占める欧米諸国を刺激したくないのが本音だ。

両者の対立は、今回の総会でも如実に浮き彫りとなった。

水産庁は外務省に対抗するため、浜田氏ら捕鯨議連の重鎮を現地ブラジルに呼び込んだ。交渉にあたった関係者によると、議連メンバーが到着してから開幕前に現地で行われたブリーフィングで、外務省のスタッフは「昨今の国際情勢は、このようになっておりまして…」とやんわり捕鯨再開に向けた動きを牽制しようとした。

すると、議連メンバーの1人が「俺たちはガキの使いじゃねえぞ!」と叱責する場面があった、という。