メイウェザーvs天心を私たちはどう見たらいいのか

一方的か、塩試合か、熱戦か
安村 発 プロフィール

身長8cm、体重は10kgの差

那須川天心はキックボクサーであり、ボクシングの試合経験はゼロだ。しかも、身長は那須川の165cmに対してメイウェザーが173cmと8cm高く、体重は那須川が現在主戦場にしているフェザー級の契約体重が57.15kgに対して、メイウェザー戦の契約体重は66.68kg(ウェルター級)と、4階級、約10kgもの体重差がある。

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しかも、グローブはともに8オンス。ボクシングの公式ルールではフェザー級は8オンス、ウェルター級は10オンスなのだが、全くハンデはつけないというわけだ。

「勝負になるわけがない」「一方的に終わるか、遊ばれて終わるかどちらか」との予想が大勢を占めるのは、自然かもしれない。いずれにせよ、那須川が圧倒的に不利なことは言うまでもない。だが私は言いたい。那須川天心は、そんな予想を覆す男だ、と。

平成最後の大晦日に行われるこの試合を私たちは一体、どんな風に見たらいいのだろうか。天心は、本当に大丈夫なのか?危険ではないのか?

 

33戦無敗、那須川天心が“神童”といわれるまで

ここで、那須川天心とはどんな選手なのか。少し説明させていただきたい。

那須川天心は幼少時代から父・弘幸氏の指導の元、自宅に改造された一室で空手特訓を行い、多くのジュニア大会で優勝を獲得。ジュニアキックボクシングに戦場を移すと、タイトルを次々と獲得し、「大人以上にハイレベルで金の取れる試合だ」と会場に来ていたお客さんが口を揃えていうほどにまでになった。

アマチュア戦績は幼少期も含めて105戦99勝(37KO)5敗1分ととんでもない戦績を残し、14年に高校進学と同時にプロ転向をすると、その年の7月にキックボクシングプロデビュー。

キックボクシング系の団体「RISE」のランカー選手(RISEバンタム級7位・有松朝)を相手に無謀なカードとも言われたが、那須川が1R58秒左ハイキックで“まさか”の秒殺KOでプロデビュー戦を飾った。

那須川のキャリアを振り返れば、それからも異例のマッチメイクは続く。15年5月にはプロ6戦目無敗のまま当時チャンピオンの村越優汰が持つRISEバンタム級王座に挑戦すると、2度のダウンを奪った上で2RにKO勝ちで王座奪取に成功(16歳9カ月の時)。

その3カ月後には、日本国内にある団体のチャンピオンが集結した8人制のワンデートーナメント「BLADE−55kgトーナメント」にエントリーし、3試合全てをKO勝ち。3試合“まさか”の合計タイム371秒(6分11秒)で見事に優勝を果たしている。

ムエタイの世界王者を失神KO

16年12月の高校3年生時には、立ち技最強格闘技と言われるムエタイの現役チャンピオンのワンチャローンと相手の土俵であるヒジ打ち攻撃ありのルールで対決(那須川はヒジありルール初)。

那須川初敗北も予想されたが、序盤から那須川が圧倒。1R終盤に後ろ回し蹴りをワンチャローンの顎に命中させて“まさか”のKO勝ちで会場を爆発させた。

ムエタイルールを参考に考案された日本発祥の格闘技「キックボクシング」が生まれたのは1966年のこと。これまでに日本人とタイの現役王者との対戦は何度も行われてきたが、そんな特殊な技でタイ王者からKO勝ちした選手は未だにいない。

次々と偉業を達成していく那須川のことをキック関係者の誰もが言う。彼は過去にも未来にも今後現れることのないキックの“最高傑作”だと。

プロキックボクシング28戦28勝21KO無敗、総合格闘技4戦4勝無敗、ミックスルール1戦1勝無敗。那須川天心もまた、33戦していまだ無敗である。

キックでは国内・海外で敵なし状態となり、ボクシング転向も噂される中で決まったメイウェザー戦。この”一度も負けたことがない”者同士の戦いは、ボクシングの公式試合ではなく、判定では勝敗は付かない。どちらかがKOされても公式記録としては残らない一戦となる。