『あいだにはたち』©さおとめやぎ/講談社

「精子泥棒」は罪なのか…? 現役弁護士がジャッジした

『あいだにはたち』の行為は合法か

優秀な遺伝子で子供を作ろうと目論むミサさんに一目惚れし、25歳の大学院生である兄の名を騙ってセフレとなった男子高校生・高江玲於奈(たかえれおな)。そんな二人のサスペンスフルな関係を描いた『あいだにはたち』(さおとめやぎ/コミックDAYS連載中)の第2巻が好評発売中だ。

(第1話はこちらから読めます→https://comic-days.com/episode/10834108156630543838

高江くんを相手に戦略的に立ち回り、優秀な精子を狙うミサさんの行為は「精子泥棒」となり犯罪ではないのか? 本記事では、そんな疑問を現役弁護士・田畑淳先生にぶつけてみた。

(本原稿はコミックDAYS blogに掲載された記事を転載したものです)

その行為は「精子泥棒」ではないのか

――本日は田畑先生に、『あいだにはたち』で描かれた出来事について、いろいろジャッジしていただきたいと思います。よろしくお願いします!

田畑: よろしくお願いします。今回の企画を聞かせていただいた時、興味深い事例だなと思いながらも笑ってしまいました(笑)。とはいえ、真面目に考察していきますので、どんどん聞いてください。

――さっそく直球の質問ですが、ミサさんが行っている行為は「精子泥棒ではないのでしょうか?

『あいだにはたち』より

田畑: 盗む、騙し取るということで問題になりうるのは“窃盗”か“詐欺”です。窃盗も詐欺も、財物に対して行われる行為ですから、簡単に言えば「精子が財産に当たるのか」が問題になってきます。それに当たったとしても、任意で性行為をした場合に「窃盗」を問うことは難しそうです。

また、詐欺についてミサさんは「ピルを飲んでいるから大丈夫」と言って高江くんと性行為をしているわけですが、そういった嘘をついて妊娠・出産したことに関してペナルティを問うことは難しいでしょう。

コンドームやピルは避妊率が100%ではないと表記してあり、社会通念上でもそのように認識されていることから、裁判所も100%避妊できる性行為はないという前提で考えていると思われます。実際、2000年頃に、イギリスでコンドームに欠陥があった結果妊娠したと主張する人がコンドームメーカーの「デュレックス」を訴えた事案がありましたが、ユーザーが敗訴しています。

――なるほど……! コンドームに穴を開けたとか、そういった行為も罰せられないと。

田畑: どこまでが詐欺かという話だと、「今日は安全日だから」と言われたら詐欺になるのかとか、嘘のレイヤーもいろいろありますし、「絶対避妊できたはずなのに!」という立論自体も現実問題としては成り立ちにくいんです。

――男性側が全く知らない内に女性側が妊娠して裁判に至った、というケースはあるのですか?

田畑: 日本では、妊娠への経緯はさておき、生きている父親の生物学上の子であれば親子関係を認める傾向があるように感じます。例えば昨年の奈良地判で「別居中の妻が、夫の同意なく冷凍精子で妊娠した」ケースで、父子の関係を認めています。

ただ僕自身の興味もあって、友人でありワシントンD.C.で国際的に活躍している永島弁護士に海外の事例を教えてもらいました。その中で興味深かったのが、元々付き合っていた男女の間で、女性が検査と偽って男性から精子を受け取り、人工授精をして妊娠したというケースです。

この事例では、デラウェア最高裁で争った結果、女性が年齢を偽っていたこと、「既に妊娠している」と嘘をついていたこともあり最終的に「男性は騙されたのであって、子供を作ることに合意していない」ということで、法律上の父親ではないと判断されていました。ただ、本作のようにSEXに合意していることと、検査だと偽られて精子を渡している違いはとても大きいため、この件と同様に考えて高江くんが父親としての義務を免れるとは思えません。

まんまとミサさんの嘘を信じてしまう高江くん。でも、誘いに乗った以上は……。(第3話)