Photo by iStock

文学にも#MeToo運動が合流…!2018年の海外小説ベスト12

平成最後の年末年始におすすめの12冊

フェミニズム・ディストピアが流行

海外文学の事件といえば、日本文学編にも書きましたが、ノーベル文学賞の見送りという異例の事態が挙げられるでしょう。

しかも理由がとんでもない。審査を担うスウェーデン・アカデミー委員の夫による広範かつ甚大なセクシュアル・ハラスメント(端的に性的暴行と言うべきか)、受賞者に関する外部への情報リーク、経済的癒着などが、ぼろぼろ明るみに出たのでした。この事件には、セクハラ、パワハラ、情報漏洩、政治的人脈の癒着と汚職、権威機関の閉鎖性という、いまの日本でも頭の痛い問題が凝縮されています。

同賞の情報リークについて軽くご説明。毎年、ノーベル文学賞の発表が近づくと、イギリスのブックメイカー(賭け屋)などで予想レースが行われます。じつは、「村上春樹、最有力候補!」という煽り文句は、たいがいこの賭けのオッズ、つまり下馬評を元にしているだけなのです。

しかし、授賞発表の直前になると、このオッズ表でひとりの作家が突然、上位に浮上し、実際に受賞するということがしばしばありました。「情報が洩れているのでは?」と、その筋ではしきりと囁かれていましたが、現実だったということですね。

さて、本題のセクハラ問題です。これは米国ハリウッド界での大物プロデューサー告発に始まり、文学界でもそうとう多くの作家が悪行を暴かれました。それに伴い、SNSでも#MeToo(わたしも被害を受けた)運動が繰り広げられ、文学の大きな潮流を形成しました。

ここ十数年のディストピア(支配者による管理監視社会を描く裏ユートピア)文学の興隆に、今年は世界中から#MeToo運動が合流する形で、「フェミニズム・ディストピア」ともいうべきサブジャンルを形成する勢いです。2番、12番などもその典型ですし、大きく見れば4番もその流れにあるでしょう。

この流れの親玉的存在は、女性の性奴隷制を描いたマーガレット・アトウッド『侍女の物語』あたりかと思いますが、今年のイギリスのマン・ブッカー賞はまさにフェミニズム・ディストピア系圧勝の感あり。

受賞したアンナ・バーンズ(アイルランド)の Milkmanは不気味な“ストーカー”を登場させ、40年前の北アイルランドを舞台にしながら現在の社会と響き合うディストピアワールドを描きます。候補作には、ソフィー・マッキントッシュ(英国)の孤島ものや、レイチェル・クシュナー(米国)の女性刑務所ものなど、要注目作家の作品が目白押し。

一方、アメリカのピューリッツァー賞と全米図書賞は、候補作・受賞作とも、愛と友情と人間の成長というヒューマン路線にやや回帰している模様です。アンドリュー・ショーン・グリアのLessなどは、いまから邦訳が楽しみ。

それから、引き続き今年も韓国、台湾の文学が数多く訳され、人気を博しています。ファン・ジョウン『野蛮なアリスさん』(斎藤真理子/訳 河出書房新社)キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』(すんみ/訳 晶文社)ハン・ガン『そっと 静かに』(古川綾子/訳 クオン)などが印象に残っています。

版元では、クオン(「新しい韓国の文学」シリーズ)、晶文社(「韓国文学のオクリモノ」シリーズ)、白水社、河出書房新社、筑摩書房、亜紀書房(「となりの国のものがたり」シリーズ)などはとくに要チェック。八面六臂の活躍の斎藤真理子さん、吉川凪さんといった翻訳者にも注目を。なお、11月に呉明益『自転車泥棒』(天野健太郎/訳 文藝春秋)を刊行した後、台湾文学紹介の第一人者であった天野健太郎さんが急逝されたことが、惜しまれてなりません。

フィクション以外では、「マンスプレイニング」(man + explainの造語。女性を下目に見て講釈をたれたがる男性の行為を指す)という語を広めたと言われるレベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』(ハーン小路恭子/訳 左右社)も話題になりました。言語・翻訳関係では、ダニエル・ヘラー=ローゼン『エコラリアス』(関口涼子/訳 みすず書房)、サイエンス系では、M・R・オコナー『絶滅できない動物たち』(大下英津子/訳 ダイヤモンド社)なども強力にお勧めしたいです。

では、なるべく各国取り揃えて、おすすめの12冊です。番号は順位ではありません。

(2018年日本小説ベスト12はこちら)