いまだに盛んな「パワースポット・ブーム」にひとこと物申す

信心の形を反省すべき時期が来た
畑中 章宏 プロフィール

「清正井」と「白い氣守」

パワースポットという用語と概念を広め、ブームをあおった現象のひとつに、明治神宮境内の「清正井(清正の井戸)」に参拝者が殺到するという事態があった。

テレビ番組での紹介で知名度が一挙に上がり、2009年末頃からは人気のパワースポットとなったのである。

この井戸の画像を、携帯やスマホの待ち受け画面に設定することでパワーを得られる、癒しの効果が得られるなどという噂が一気に広まり、最盛期には4、5時間待ちの行列ができてニュースになったのだ。

ちなみに、「清正井」がパワースポットとされるのは、富士山と皇居を結ぶ「龍脈」の上にあり、気が地表に吹き出す「龍穴」だからということだった。

「パワースポット」が頒布する「気」を帯びた護符が、騒動を巻き起こしたのは去年のことである。埼玉県秩父市の三峯神社が毎月1日(朔日)にだけ頒布する“限定品”の「白い氣守(きまもり)」を求める車で、大渋滞が起こったのだ。

三峯神社は、猪などの害獣から農作物を守る狼を、眷族・神使として祀る「お犬さま」信仰で知られてきた歴史的霊場である。

標高1100メートルの高地にある神社にアクセスするには、ほぼ1本道の県道を通らざるをえないため、4月には過去最長となる約25キロの渋滞となり、路線バスが運休するなど市民生活にも影響が出た。

また参拝者の多くが神社に到着できないため、神社のはるか手前で、社務所の職員が月内有効の「氣守引換え券」を渡すという事態となった。

こうした状況を重く見た神社では5月15日に、「白い氣守」の頒布を6月から当面休止すると発表したのである。

 

“俗流アニミズム”の果てに

三峯神社は「白い氣守」ブームの以前からパワースポットとして知られ、その中心は樹齢800年とされる杉の「神木」だった。

昨年末も、テレビの情報番組で三峯神社は「パワースポット」として紹介され、レポーターがこの神木に触れて「パワー」を授かるシーンが映し出されていた。

筆者は2010年、三峯神社に『神社に泊まる』の取材のため参篭(宿泊)したが、当時もこの神木は“氣”があるされていたものの、ここまでのブームではなかった。

三峯神社・神木(筆者撮影)

巨木や巨石に霊力を感じるのは、“日本人”が古来からもつ素朴な信仰心だと考えられている。しかし、日本列島に住んできた人々がどのような信仰をもってきたかを実証することは困難だ。

自然崇拝を基礎とし、そこに霊的なものをみとめるアニミスティックな信仰、祖先や身近な死者の魂を鎮める祖霊崇拝がなされたことは考古遺物などから推測できる。

こうした自然崇拝、精霊崇拝、祖霊崇拝は、豊作や豊漁を願いつつ、共同体の繁栄と安寧を祈るものだったろう。

巨樹や巨石には、古代人ならずとも、人間的時間を超えた生命力や神秘的な力が感じられるかもしれない。またエコロジカルな生活を礼賛する近年の自然志向、環境に対する過大な保護主義的観念が、霊的スポットに多くの人が惹きつけられる要因になっているのだろう。昨今の「縄文ブーム」にも“自然との共生”を高く評価するような側面がみられる。

しかし自然は本来、人々に恩恵を与えるとともに災害などを起こす脅威の対象でもあった。山や川、海に対する「畏怖」の感情が、自然そのものへの信仰心を芽生えさせ、そこが霊の依り代であるという観念を定着させたのだ。 

だが、都市に住む第3次産業の従事者たちには、自然から受ける直接的な恩恵は少なく、遠くの災害も他人事になってしまっている。多くの日本人にとって、自然の恵みも脅威も、切実なものではなくなっているのだ。

だからこそ、古来の信仰を踏まえることなく、メディアが喧伝する“名所”に過度な期待をしてしまうことになるのである。