「乗るまでに1時間かかる」車椅子利用可能タクシーの盲点

理念のためには改善が必要では
田中 圭太郎 プロフィール

このままでは…

車椅子ユーザーの男性がタクシーに乗ろうとして、30分以上が経過したが、運転手は一向に使い方がわからない。なんとか車椅子の男性を乗せようと頑張ってはいるのだが、どうにもうまくいかない。

男性も焦らせることなく冷静に、自分のわかる範囲で口頭で操作する場所を教え、付き添いの女性はyoutubeにアップされていた車椅子の乗せ方を運転手に見せている。そのようにして使い方がある程度わかっても、操作しなければならないことが多いようで、まだまだ時間はかかりそうだった。

車椅子ユーザーの男性は、タクシー乗り場の一番先頭で待っていた。他の客は後ろに列を作って、後ろから来たタクシーに次々と乗っていく。すると、車椅子ユーザーの男性のところに、酔っ払っているのか、男性が文句を言いながら詰め寄ってきた。

「このタクシーに乗せろ!みんな迷惑しているんだ」

さすがにこの発言に対しては、車椅子ユーザーの男性も、付き添いの女性も、言葉を失ったようだった。筆者が「困っているのは車椅子の方ですよ」と言うと去って行ったが、車椅子ユーザーの男性は悲しそうな表情を浮かべた。

「東京でJPN TAXIに乗ろうとすると、いつもこんな感じです。乗り場は分かれていないので、私たちは待たされた上に、肩身の狭い思いをします。いまのままでは、このタクシーは利用しづらくてしかたがない。このタクシーが普及して東京2020を迎えても、現状のままでは、大変なことになると思いますよ」

ようやく運転手が車椅子ユーザーの男性を乗せることができたのは、作業を始めて1時間後。すでに日付も変わっていた。車椅子ユーザーの男性は、付き添いの女性に別れを告げて、なんとか帰途に着くことができた。

 

30以上の複雑な手順

JPN TAXIが発売されたのは2017年10月。乗用車の「シエンタ」をベースにして開発されたもので、上級グレードは約350万円、標準グレードが約330万円。国土交通省のUDタクシーの認定要件に適合していることから、購入には1台あたり上限60万円の補助金が国から支給される。

トヨタはパラリンピックのスポンサーの中でも最高位レベルの契約である「ワールドワイド・パラリンピック・パートナー」スポンサー契約を、IPC・国際パラリンピック委員会と結んでいる。契約は2016年から24年までで、17年以降24年までの各大会では、日本だけでなくグローバルで車やロボットによる移動支援をする権利を得た。

JPN TAXIの車体にもパラリンピックのオフィシャル・ワールドワイド・スポンサーであることがデザインされている。このスポンサー契約がJPN TAXI導入の追い風になっていることは間違いない。

JPN TAXIは2018年10月末現在、発売から1年間あまりで8000台が販売された。UDタクシーは日産も販売しているが、後発のJPN TAXIがトップシェアを奪った。

しかし、車椅子を乗せるためには、スロープの設置や固定など30以上の複雑な作業が必要になるという。運転手が混乱するのも、無理はないのかもしれない。