たねやグループ「クラブハリエ」のバームクーヘン

150年近く存続…長続きする会社は、これまで何を考えてきたのか?

「たねや」社長が明かす「三方よし」の発想

私たち「たねやグループ」の売り上げは和菓子洋菓子を合わせて200億円を突破しました(2017年)。「お客様に手渡すところまで自分たちでやる」がモットーなので、同業他社に比べて全スタッフ数2000人と非常に多いのですが、私が生まれた頃のたねやはこんな存在ではありませんでした。

家族だけで細々と営業するような、ちっぽけなお店。菓子屋に転じたのは私の曽祖父の時代です。1872年(明治5年)に近江八幡に「種家末廣」というお店を開いてからなので、私は菓子屋として4代目になります。

なぜ菓子屋として150年近く長続きできているのか?『近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本』(講談社現代新書)からいくつかまとめてみました。

伝統とは「変える」こと

長年、ご愛顧いただいている地元のお客様から、こんな声をかけられることがあります。

「たねやの栗饅頭はずっと変わらへん。いつ食べてもおいしいわ」

いえいえ、そんなことはありません。私の代になって、ほぼすべての商品の味を変えたのですが、そうした大幅な変更とは別に、マイナーチェンジも日々おこなっています。

栗饅頭と斗升最中

クラブハリエの商品も同様です。バームクーヘンだって、ずいぶん味を変えてきている。人々の味の好みは変化しています。それに合わせて菓子の味も食感も変わって当然なのです。

父が祖父のレシピで栗饅頭を作ってくれたことがあります。もう甘ったるくて、二口と食べられませんでした。それを甘さ控えめにしたのが父のレシピですが、私はその砂糖の量をさらに半分にしています。

戦後しばらくは、砂糖を固めただけで売れた時代です。人々は甘いものに飢えていたから、そのほうが良かった。そんな時代に求められるものと、現代に求められるものは違う。

父からくり返し言われたのは、「主人がすべての味を決めるんや。それができんのやったら、継いだらあかん」。代が変われば味が変わるのを当然と考えているから、私がふくみ天平や栗饅頭の味をいじっても、一言の文句も言わなかった。

主人が変わったら味を変えるのは、そこでいったんリセットし、新しい時代の嗜好に近づけていく知恵なのでしょう。

もし祖父のレシピをいまも守り続けていたら、間違いなく栗饅頭は売れていません。「伝統を守る」という言葉をよく耳にしますが、守っていたら、たねやは潰れていた。

私は伝統とは「続けること」だと思っています。では、続けるために何をすべきなのか?時代に合わせて変えるしかない。伝統を守るとは、変えることなのです。

ただし、変えたことがお客様にわかるようでは、話になりません。大きく変えているのに「昔から変わらん味やなあ」と言っていただいてはじめてプロなのです。

健康になる菓子

こうした「変える努力」の根本にあるのは、このままでは和菓子は消えてしまうのではないか、という危機感です。和菓子の市場は大きく縮小しています。それに加えて、少子高齢化がある。母数自体が減っていくわけです。では、いったい何をすればいいのか?

年配のお客様が来店されたとき、よく聞く言葉は、「わしはもうええわ。そんな食べられへんし。それより孫に買うたるんや」。歳をとれば、当然、食べる量は減ります。そのぶん、お孫さんに買っているわけです。

和菓子の場合、こどもの日とかひな祭りとか、さまざまな歳時があるので、お孫さんに買うきっかけはあるのですが、洋菓子はそこが弱い。そこで、子供にも本当においしいお菓子を食べてもらいたいという思いで、「クラブハリエキッズ」というブランドを立ち上げました。

その一方で、年配のお客様自身が食べたくなる工夫も必要です。滋賀経済同友会の仲間と大学生・高校生を集めて、滋賀県の未来を考える会合を2ヵ月に1回やっているのですが、そこで学生さんから面白い意見が出たのです。

「近江八幡は終の棲家を目指すって言うけど、それなら病人になっても食べられる菓子があってもいいんじゃないですか?」

滋賀県の未来を語るなかで、ビジネスのヒントをもらえた。そこで「健康になる菓子」の研究を始めました。内科医の渡邉美和子先生(一般社団法人メディカルファーム代表理事)と組んで、糖尿病の人でも食べられる菓子や、小麦粉アレルギーの人でも食べられる菓子を開発する。

このプロジェクトからは、すでに商品が生まれています。「たねや寒天ドライトマト」のように、糖質を極限まで抑えた菓子。「からら」はバターや小麦粉を使わない焼き菓子で、種子や木の実でアクセントをつけてあります。玄米粉入りのものがあったり、カカオ入りのものがあったり、八丁味噌を混ぜたものがあったり、菓子としておいしく食べていただける工夫をしてあります。

健康のためにおいしさを犠牲にするようでは、プロとは言えません。プロの菓子屋としては、健康になりつつ、おいしいものを提供しないといけない。

3人に1人が65歳以上という社会は、もうそこまできています。そんな時代に求められるのは、「健康になる菓子」だと思うのです。「寝たきり老人」を減らし「動いたっきり老人」を増やすのが、私の夢です。