「常に人を呼べる家」を大切にする人たち

デンマークへの出張は1人で行くことがよくありました。そんな時は必ずスタッフの誰かが「一人で夕食を食べるなんて。我が家へおいでよ」と、自宅に招待してくれました。

他の国では仕事とプライベートは分けられていて、あまりお家にまで呼ばれたことはなかったので新鮮でしたし、そして何より彼らの温かさに心を打たれました。

彼らのお宅にお邪魔して驚いたのは、いつ訪ねても家がきれいに片付いていることでした。日本であればお客様が来る前の週末に大掃除をし、出しっぱなしのおもちゃや本などをクローゼットにしまい込まないと人が呼べませんが、デンマークでは30分前に「今からうちに来る?」と声をかけてくださった時でも、彼らの家は、まるで1週間前からお客様が来ることがわかっていたかのようにピカピカなのです。

なるほど。ランチタイムを節約して早く帰れば、平日でも家を整える時間が取れるのでしょう。週末にしか余裕がない私たちとは、そんなところでも差がつくんだなあと感心したものです。

お仕事でご一緒したマーティンさんのご自宅リビング。突然行っても必ずすっきり。もちろん個人差はあるでしょうが、このお宅以外にも「家はすっきりさせる」人ばかりに出会って驚きました 写真提供/行正り香

受験産業がなく宿題も塾もない

デンマークは大人だけではなく、子どもにもゆとりがあります。受験がないというのも、その一つの理由です。デンマークの高校も大学も受験がなく、中学、高校でそれなりの成績と高い内申点をとり、かつ学校での積極的な活動記録を残した子だけが大学へ進みます。

大学の学費は無料で、国からは学生手当も支給されます。そのぶん、実は入れる人数に限りがあるので、大学に行きたい子どもは、試験前だけでなく、コンスタントに真面目に自ら勉強をし続けるのです。

お受験がないデンマークには、塾も存在しません。それどころか12歳になるまでは、学校は宿題も出してはいけないのだそうです。子どもなのだから、放課後はしっかり遊び、家族と時間を過ごそうということなのでしょう。むしろそのような時間を持つことが、長い目で見て社会を安定させるというビジョンがあるのだと思います。

先にお伝えしたように、親の帰宅時間も早いので、夕食は子どもたちを含めた家族全員でいただきます。それはお客様がいる時も同じで、子どもも大人たちに混じっておしゃべりしながら食事をするのです。そして後片付けは多くのデンマーク家庭にとっては子どもの役目。自然に「家事をするのが普通」となります。

これが日本だったら、まず子どもを大人のお客様と同じテーブルに座らせることは少ないでしょうし、それ以前にその時間は塾に行っていて不在なことが多いはず。子どもがいたとしても、親は後片付けなども「ここはいいから早く部屋で勉強しなさい」と言うでしょう。日本では子どもに勉強を強いることで、逆に彼らから社交や学びのチャンスを奪っているのだとしたら、実にもったいないことだと思います。

シンプルで温かいダイニングセットを大人も子どもも一緒に囲み、食器洗いは子どもという役割分担が自然にできている家庭が多い 写真提供/行正り香

一方、勉強が苦手な子には職業にフォーカスした専門学校があり、どういう道に進みたいか、高校生になる頃までには自分の進路を決めることが多いそうです。また決まらないのならば、その後1年ほど旅をさせたりする親も多いと聞きます。日本のように「とりあえず塾へ行っていい大学へ入りなさい」ではなく、それぞれが自分に合った進路を選んでいるのです。ある意味、デンマークでは勉強が得意な子もそうでない子も、平等だといえます。