速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く

ニュースの「信頼」を取り戻すために
奥村 信幸 プロフィール

読者も、ニュースを作る「協力者」に

コレスポンデントはニュースを「最終商品」ではなく、「読者と共に進める対話」であるとする。そのため、記事のアイディアや、これから何を知るべきかという問題意識、取材計画までを「公開ノートブック」としてウェブサイト上にアップデートしていく方式を取ることを宣言している。

読者やユーザーは、受け身で情報を単に消費するだけの存在ではなく、時に専門的な知識の供給源ともなる積極的な「協力者」となってほしい、とも述べている。事実、オランダのコレスポンデントでは、記者の時間の30〜40%がソーシャルメディアなどを通じた読者とのコミュニケーションに充てられるという。これはジャーナリストのエネルギーの配分としてはかなり異質なものだ。

 

記事が作られていくプロセスを透明化し、記者自身も取材内容を公開し、読者との情報や意見交換を経ながら、柔軟に仮説や前提を改めて問題を深く探求していくことが、コレスポンデントの報道姿勢であるとしている。そうすることによって、「ジャーナリストと、読者やユーザーとの信頼関係や絆」が強化されていくはずだと。

肝心なのは、「私たちは事実を提示します」「読者は記事を読んで、あとは自分で判断して下さい」というような「彼らと私たち」という一方向的な関係ではなく、わくわくするような発見から懸念すべき問題まで、過程を晒しながらニュースを出し続けることで、報道内容だけでなく「ひとりの人間としての記者」に対する読者の理解を深めてもらうことだという。

従来の報道の「常識」は、取材した情報の中から伝えるべきものだけを選別してニュースとして伝え、そのほかのボツネタをはじめ、取材の「手の内」や「過程」を見せるのはタブーという考え方だ。この点は、おそらく既存のメディアにとって最も受け入れることが難しい価値観ではないだろうか。

読者の信頼が第一、収益は最小限に

19世紀の終わり頃から始まったニュースビジネスは、単純に言えば「いかに読者の目を引くニュースを出せるか」を競い、その結果集まった読者や視聴者を、広告主に売ることで成立してきた。しかし、産業が成熟するにつれて、このようなビジネスモデルの限界が露呈している。

広告モデルでは、メディアが純粋に「重要だ」「報じる価値がある」と考えるニュースよりも、「人の目を引く」ニュースの優先度が高まる。またニュースとして議論するのが適切かどうか、影響を受ける人の集団がどのくらい大きいのかといった基準よりも、新しいかどうか、見た目のインパクトがあるかどうかといった基準が勝ってしまう。

コレスポンデントはこの問題を克服するために、広告に依存するビジネスモデルを捨て、報道姿勢に賛同する読者のメンバーシップ料を唯一の収益源にしようとしている

Photo by iStock

しかし、こうしたジャーナリズムの理想を語るだけでは、報道機関としての活動が継続できるかは保証されない。理想を実践し続けることだけが、コレスポンデントを存続させる原動力なのだ。

コレスポンデントの組織としての具体的な行動原理や、第三者からの干渉や利益相反を避けるための仕組みの整備に大きな役割を果たしたのは、報道機関の活動を支える基金のアドバイザーとして関わっているジェイ・ローゼンだ。彼は、経営の理念や原則についてこちらの記事でまとめている。

彼はまずファウスとワインバーグに対し、2011年にハフィントンポストがAOLに3億1500万ドルで売却されたときのように、もしもコレスポンデントがこれから大成功を収めても、創立者である2人が会社を売却し、巨額の利益を上げるような事態が100%起きないような保証を求めた。その結果、以下の2点の仕組みが整備されたという。

ひとつめは、どんなに会員収入などが増えても、利益率に「5%」という厳格な上限(キャップ)を設けるという規定だ。これはウェブサイトの「10の原則」の9番目に明記されている。

これでコレスポンデントが投資家にとって、買収したくなる魅力的な企業に見える可能性は低くなった。

さらに、コレスポンデントに出資している企業や、アメリカのコレスポンデントのオーナーとなるオランダの組織の幹部(ファウスやワインバーグも含まれる)に、同社の基本的な目標や創立理念、経営方針などを変更できないよう規定し、これらを公開した。こうして、コレスポンデントは収益を極大化する必要がなくなり、理想を掲げた目標に専念できるというわけだ。

アメリカのコレスポンデントは、この2019年1月から本格的にスタートし、6月頃に最初のニュース配信を目指すという。彼らの最初の仕事は、クラウドファンディングに加わった賛同者に最初のニューズレターを書くことだそうだ。筆者も非常にわずかではあるが、出資している。

記者の本格的な募集も始まったばかりのうえ、ニュースをメンバーにのみ限定して公開するのか、一部を一般にも公開するのかといった、細かい運営方針もまだ決まっていない部分が多い。また、記録的な額となったとはいえ、クラウドファンディングに協力した人の数はわずか5万人足らずで、協力額のメジアン(中央値)は約30ドルと、規模も大きくない。コレスポンデントがメディアとしてどこまで存在感を示せるかは、未知数の部分も多い。

おそらく、メディアとしてはかなり小さな規模からスタートするであろうから、彼らの実践や純粋な思想が、既存の大手メディアにもそのままヒントになるとは言い難い。

それでも、「ニュースの客観性」をめぐる議論や、政治的な立ち位置についてのミッション・ステートメントなどの試みは、日本のメディアにとっても興味深い話題だろう。コレスポンデントの挑戦がどう支持され、どう展開するのか、2019年は注目の年となりそうだ。