The Correspondentのサイトより

速報も広告もやらない「新メディア」のジャーナリズム哲学を読み解く

ニュースの「信頼」を取り戻すために

新メディア「コレスポンデント」とは何か?

アメリカで2019年の初夏、新しいメディアが生まれることになりそうだ。正しくは2013年にオランダでスタートした新しいニュースメディアの英語版がスタートする。ジャーナリズム関係者の間では早くから注目されていたメディア「De Correspondent」が、「The Correspondent」という英語でのサービスを、ニューヨークを拠点にして始める計画だ。

コレスポンデントという言葉は「特派員」と訳されることが多いが、むしろいろいろな現場に派遣される記者/リポーターと言ったほうが適当であろう。オランダ語圏に限定されたニュースサービスだったにもかかわらず、彼らが世界的な注目を集めたのは、以下のようなジャーナリズムについての考え方や経営理念が高い評価を得たためであった。

・ニュース速報競争と距離をおき、代わりに原因の分析や解説を重視したニュースをつくる。
・ユーザーとソーシャルメディアなどで対話しながら、ニュースの切り口や取材先を柔軟に決めていく。
・広告を取らず、ユーザーの購読料だけでメディアを運営する。

そして、この考え方に賛同する支援者をクラウドファンディングで募り、8日間で1万9000人近くの寄付を集めている。

 

英語圏でのメディア開設計画でも、彼らは当初資金をクラウドファンディングで集めると宣言し、2018年11月14日から1カ月で250万ドルという目標を掲げ、締め切り33時間前に何とか目標を達成した。

支援を申し出た人は目標達成時で4万2780人、ニュースサービスに対するクラウドファンディングの人数としては、オランダで成功した時の記録を更新し世界最大規模になった。この原稿を書いている12月末現在、支援者はさらに増え、4万6000人を超えている。

コレスポンデントのホームページには「最新じゃないニュース(Unbreaking News)」というコピーが掲げられている。この反対語である「Breaking News(ブレーキングニュース)」とは「ただいま入ったばかりのニュースです」と伝えられる、いわゆる「飛び込みのニュース」である。「24/7」とも言われる、24時間、1週間休みなしのサイクルで動く現代のニュースの世界では、最も価値があるものとされている。

だが、コレスポンデントは、この「常識」に真っ向から異議を唱える。

「Unbreaking News(最新じゃないニュース)」のコピーを掲げるコレスポンデント(同サイトより)

「理想のジャーナリズム」に正面から挑む

アメリカで開設が予定されているコレスポンデントでも、オランダで中心的な役割を果たしてきたエルンスト・ファウスとロブ・ワインバーグが、それぞれCEOと編集責任者(Founding Editor)を務める。

コレスポンデントがこれまで注目されてきたのは、その純粋で愚直ともいえるニュースづくりの姿勢のためである。日本を含め、世界中のほとんどの国で、ニュースを伝えているメディアが「理想ではあるが実現は難しい」とあきらめていたことに、敢えて挑戦したからだ。

しかし、オランダ語だったこともあって、彼らの考え方が詳しく分析されてきたとは言い難い。筆者も2017年10月に、アメリカ・ワシントンDCで開かれたONA(オンライン・ニュース・アソシエーション)という世界最大のデジタルジャーナリズム団体の年次総会のセッションで、ワインバーグのプレゼンを聞いたが、時間も限られていて消化不良であった。

アメリカでのクラウドファンディング・キャンペーンを行うにあたり、ファウスとワインバーグ、それに市民ジャーナリズムの権威で、既存のメディアの報道姿勢を鋭く批判してきたニューヨーク大学教授のジェイ・ローゼンの3人は、かなりの分量にのぼる「能書き」を公開し、トークショーに出演するなどPRを行ってきた。

彼らがMedium(カナダ発のブログプラットフォーム)に英語で公開したものを中心にエッセンスを抽出し、考え方を整理してみたい。彼らの議論は、単にニュースを送り届ける「理念」だけでなく、How=それをどのような手続きで行うのかという段階にまで、一歩踏み込んだものになっている。

コレスポンデントのファウンダーの一人、エルンスト・ファウス氏(CC BY-SA 4.0 Photo by Bengt Oberger)

コレスポンデントの試みに対しては、「一定の規模のメディアを維持するには、広告など何らかのスポンサーに依存しないとサステナブルな経営は期待できない」など、冷ややかな見方もある。また、彼らのコンテンツは「ニュースでなく、評論ではないか」という批判もある。

しかし、コレスポンデントの主張は、ディスインフォメーションやミスインフォメーションの嵐の中で信用が揺らいでいる現代のニュースメディアの弱点を鋭く言い当てていたり、それらのメディアが避けてきたジャーナリズム本来の役割をいかに回復するかのヒントについて議論したりしていて、傾聴に値するものだと思う。次頁から具体的に見てゆこう。