大学受験の失敗を社会人になっても抱える「受験うつ」の悲劇

あなたのまわりにもいませんか?
吉田 たかよし プロフィール

始まりは中学受験

大学受験で第一志望校が不合格になり、第二志望校、第三志望校へ進学することが、それほど苦痛なのか。世の中には第一志望校に通えなかった人など山ほどいる。むしろ、そういう人がほとんどで、みんな現実に折り合いをつけ、新しい環境を受け入れ、楽しむものではないだろうか。

だが、「受験うつ」を患っている人にはそれができない。彼らをそうさせる毒芽は何か?

それは、異常なほどに肥大した自己愛だ。

 

「受験うつ」は、大学受験期にその芽を伸ばすことが多いが、その「種」が植えられるのは、それよりも6年前に遡る。6年前の一大イベントといえば、中学受験だ。

実は「受験うつ」を引き起こす原因は、家庭にある。「受験うつ」は大学受験に限らず、中学・高校とすべての受験期に発症するうつ病を指す。中学受験でうつになるケースは、子供の成績に一喜一憂する親の気分に子供が翻弄され、心理的なストレスが積み重なる形で発症する。だが、中学受験期にうつを発症するというケースは、「受験うつ」の中ではさほど多くはない。

むしろ、気をつけなければいけないのは、中学受験で第一志望校に合格した後だ。

ちやほやされた結果…

中学受験のゴールは、志望校に合格することだ。中学受験は子供がまだ小学生であるがために、親の期待も大きい。そのため、難関中学への合格が勝ち組となる。そういった難関中学に合格する子は、地元の小学校や塾では“神童”と呼ばれている。また、親からも「あなたは頭がいい子だから」と常にちやほやされている。

幼い時から「僕は天才だ」「僕が天才だからお母さんは喜んでいる」といった考えを抱いてしまった子供は、自分に過剰な自信を持っている。その集大成ともいえる難関中学への合格を手に入れた段階で、子供の自己愛は極限状態まで肥大する。

ところが、難関中学に入れば、まわりはみんな“神童”だらけ。入学後、最初の中間考査でひどい点を取り、自分だけが特別ではないという現実を突き付けられる。

そこで、謙虚な気持ちになり、「今回は何かやり方が間違っていたのだろうか?」「もう少し○○をしてみよう」など、自分なりに考えて、立て直すことができれば、難関中学でも伸びていくだろう。

だが、肥大化した自己愛がそれを邪魔する。そして、自分の失敗は棚に上げ、「この問題は内部生が有利になるように作られている」「小学部から上がってきた内部生はバカばっかり」「こんなくだらない問題を作る教師は愚かだ」など、他者への攻撃へと変わる。自分だけが一流と思い込み、努力を放棄し、不満や苛立ちをぶつける。

幼い時から親や周りの期待に応え、その実力を発揮してきた“神童”達。だが、たかだか12歳の子供の実力など知れている。多くの場合は、親から受け継がれたDNAによるところがおおきく、本人の力だけとは言い難い。これが高校受験や大学受験になると、本人の努力によるものに変わるが、中学受験の場合は親から授かった力のおかげであることが多い。

実際、中学受験で難関中学に合格する子の親は、高学歴であることが多い。「受験うつ」は親が高学歴であったり、社会的に地位の高い人の子に多く発症する傾向がある。

誤解しないで欲しいのだが、私は中学受験そのものを否定しているわけではない。私自身、中学受験を経験している。小学生の段階で、合格という大きな目標に向かって努力を積み重ねることは、長い人生を生き抜く上で、とても貴重な経験になるし、私自身それを実感している。

しかし、子供の良さを成績だけで判断してしまったり、努力よりも結果だけに目を向けてしまったりと、親が間違った対応をしてしまうと、子供の人生は転落する。志望校に合格しても、「俺は天才だ」「まわりの奴らがバカなんだ」と自己愛ばかりが膨らみ、現実を直視できずに、うつに陥ってしまうリスクがあることを親は知っておくべきだ。

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中学受験で難関中学を目指すのは、難関大学に有利な切符を手に入れるため、という家庭は少なくない。だが、中学受験をわが子の人生のプラスにするのもマイナスにするのも親次第なのだ。中学受験のゴールは難関中学に合格することかもしれないが、人生においてはほんの通過点に過ぎないこと、この先は自分で努力することが必要であることを、愛するわが子に伝えて欲しい。