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大学受験の失敗を社会人になっても抱える「受験うつ」の悲劇

あなたのまわりにもいませんか?

「自分のやりたい仕事と違う」
「上司の理解が得られない」
「俺はこんな会社にいる人間じゃない」

今、社会では若い世代を中心に、「うつ病」が増加している。しかし、ひとくちに「うつ病」と言っても、その症状の出方はさまざまだ。

かつて、“うつ”と言えば、「俺はもうダメだ……。何をやってもうまくいかない」と、自分を責めて落ち込む「メランコリー親和型のうつ」が主流だった。

しかし、今はそれとは対極的な、「自分がうまくいかないのは、あいつのせいだ!」と人のせいにして攻撃的になる「ディスチミア親和型うつ」(新型うつとも言う)が増えている。冒頭の声は、後者に該当する。

「ディスチミア親和型うつ」は、環境への適応が苦手な人になりやすい。若者が多く患うことから、社会人になったストレスから来るものと思われがちだ。実際、そういう人もいるが、実はそれだけが要因ではない。むしろ、うつの芽は、遠い昔に出ていることがある。

その芽が伸び始めるのが、大学受験だ。

 

「俺はこんな大学にいる人間じゃない」

「受験うつ」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

「受験うつ」とは、年々、受験生の間に増加しているうつ病で、メンタルの不調による成績の低下などを指す。それが最も発症しやすいのは大学受験期だ。

「受験うつ」になると、集中力が低下するため、粘り強く問題を考えることができなくなる。また、脳のワーキングメモリーと呼ばれる機能も低下し、文章の読解や数学の答えを導き出すことが困難になる。ただ、それがうつなのか、単なるやる気の問題なのか、学力不足なのか、専門の医師でなければ見抜くことは難しい。

だから、親はつい「こんな成績では合格できないわよ」と言ってしまう。すると突然、攻撃的になり、暴れたり暴言を吐いたりするようになる。この症状こそが「ディスチミア親和型うつ」の特徴を表す。「受験うつ」は受験期にその症状が出ることから、そう呼んでいる。

実は、私自身も「受験うつ」に苦しんだ経験を持つ。灘高校3年生の時にイライラが募って勉強に対する集中力が極端に低下し、学校に通えなくなった時期があった。当時の精神科医は、まだその症状が「受験うつ」だという認識がなく、精神安定剤を処方されるだけだった。

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幸い私の場合は、学校の先生が適切な対応をしてくれたので、回復することができたが、もしそういう人に出会わなければ、今の私はどうなっていたかわからない。

そうした苦い経験を活かし、医師として「受験うつ」に苦しむ受験生を支えたいと思い、開業したのが「受験うつ」専門に扱う心療内科クリニックだ。

私のクリニックには、「受験うつ」を発症して不登校になってしまった子や、うつによって学力が低下し浪人をくり返す人が多く通う。また、会社に就職してから「ディスチミア親和型うつ」を発症した人を丁寧に問診すると、本人も気づかないうちに、大学受験の時期にすでに症状が出始めていたケースも少なくない。

社会人と違って、大学は欠席したからといって大きな問題にならなかっただけの話で、実はうつは受験期に始まっていたというわけだ。

「受験うつ」は、受験期に発症するが、受験を終えた後もなお続く。うつのために実力を発揮できず、第二志望校、第三志望校に進学すると、その現実を認められず、新しい環境に馴染もうとしない。

そして、常に「俺はこんな大学にいる人間じゃない」と思い込み、その怒りや苛立ちを親や周りに向ける。そんな態度だから、友達もできない。