この国の未来を予見する作品ばかり!2018年の日本小説ベスト12

平成最後の年末年始に読むべき12冊
鴻巣 友季子 プロフィール

この時代に女性として生きる辛さ

3 桐野夏生『路上のX』朝日新聞出版

本作もいまの日本の現実に取材した小説です。舞台は女子高生たちを呑みこむ渋谷。「JKビジネス」(女子高生という肩書のもとに取引されるサービス。売買春も含む)によって、その日その日を生きるしかない女子高生たちと、彼女たちの性をとことん搾取しようとする大人たち。全編の語調の軽さと裏腹に、息苦しくなるような小説です。

ヒロインの「真由」は冒頭では、私立高校に進学予定の、中の上クラスの家庭の娘でした。ところが、ある日突然、両親の都合で親戚家に預けられて孤立し、渋谷に向かうと、そこには、母親からして学校をドロップアウトし、風俗業について、男に虐待され、貧困に陥るという連鎖状況に身をおく少女たちがいます。

ほんの数週間のうちに、真由はどうして一気にそこまで墜ちてしまうのか。とはいえ、いまの渋谷には大勢の「真由」がいるのが現状だと、作者は言っています。

 

桐野夏生は本作と題材的に近い『優しいおとな』でも、近未来の渋谷を舞台に、経済崩壊により福祉制度が機能しなくなった日本で、ホームレス化して生きる子どもたちを描きました。刊行はたった8年前の2010年ですが、読み手の側には、「まさかここまでのことは起こらない」という見方があったと思います。

しかしその後、日本は大規模な震災や人災を幾度も経験し、住む場所を失った被災者が、あるいは、生活が立ち行かなくなった人たちが、事実上見捨てられるさまを見てきました。作者はもはや、「小説が現実を追いかけられるか」という旨の発言をしており、読者も現実感をもって本書を読むことになると思います。

4 姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋

この小説も、現実にあった事件にインスパイアされた話題作です。2016年にあった東大生による集団婦女暴行――深夜の飲み会の席で、五人の男子学生がひとりの女子大生を裸にして性的暴力を加えたという事件。このとき被害者の女性のほうがバッシングにあったことから、作者は裁判を傍聴して取材をしたそうです。

この事件は一夜の出来事ではなく、「数年かかっておきた」と作者は言い、事件とその決着よりも、そこに至る道程に紙幅を割き、被害者、加害者の中学時代からの、恋愛や受験のことなどが細かく描かれます。

徹底した“学歴社会批評小説”と言えます。なにかにつけ、人を「○○高卒の東大経済学部出の父親」とか、「SFC・AO入試の女子学生」などと揶揄的に呼ぶ。学歴が少なからず家庭環境と階層で決まるという日本の社会構造をも痛烈に皮肉っています。

良くも悪くも「東大」という記号にまといつく現象を風刺していますが、「東大」の名前は限りなくそれに近い仮名でもよかったかもしれません。ちなみに、題名は法廷の場で実際に加害者のひとりが発した言葉とのことです。