Photo by iStock

この国の未来を予見する作品ばかり!2018年の日本小説ベスト12

平成最後の年末年始に読むべき12冊

日本の近現代を振り返る小説が増加

今年もやってまいりました。年末ぎりぎりまでねばっておすすめ本をどーんと紹介する「年末ジャンボこの12冊」。年末ベストの紹介記事はだいたい字数が限られていますが、こちらはほぼ字数無制限です。

さっそく日本文学編からいきましょう!

ここ十年ぐらい前からの傾向ですが、日本の近現代の歴史を振り返るような小説が増えています。このページでも昨年以前にご紹介した、川上弘美『森へ行きましょう』柴崎友香『千の扉』滝口悠生『高架線』長嶋有『三の隣は五号室』、あるいは星野智幸『夜は終わらない』など、昭和から平成へとつづく人々の暮らしを映しだすもの、角田光代『ツリーハウス』中島京子『小さいおうち』など、第二次大戦をはさんで一家(一族)の生活を描くもの、奥泉光『東京自叙伝』磯﨑憲一郎『電車道』のように明治からの日本の百年あまりの歩みを総ざらいする試みもありました。

平成最後の年ということもあり、そうしたクロニクル的な小説、史実や現実のできごとに取材した小説も目についた一年でした。

あとは、今年の文学界というと、海外文学のほうでもくわしく触れますが、やはりあれですね、セクシュアル・ハラスメント問題と、#MeToo運動です。国内でも、写真家や批評家など、何人もの男性芸術家や文学者が告発にあい、極めつけはノーベル文学賞の選考を行うスウェーデン・アカデミー内での性的暴行および情報リークが明るみに出て、2018年の同賞の発表が見送られたことでしょう。

また、衆議院議員による「子どもを作らない人というのは生産性がない」発言に端を発し、最終的にはその論稿の掲載誌「新潮45」が休刊になった一連のできごとも、文学界を大いに揺るがしました。モリカケ問題をはじめとした政治汚職、公文書改ざん問題、移民法の強硬改訂なども、書き手にさまざまなインスピレーションを与えたことでしょう。

全体には、女性の虐待、搾取、抑圧に疑義をつきつけるような作品、世界的な右傾化、排他・排外主義に抵抗し、同調圧力に屈しまいとする作品も多くあったと思います。

平成最後の年末年始に、いろいろな意味で注目してほしい12冊をご紹介します。去っていく平成と来たる次の時代に思いを馳せて――。珍しく今年はちょっと社会派かも?

(リストの番号は順位ではありません)

 

文学賞にも輝いた歴史小説の大作2冊

1 橋本治『草薙の剣』新潮社

まさに、クロニクル形式で、近代~現代の日本社会の変遷を浮き彫りにする歴史小説です。満州事変、太平洋戦争、戦後の復興、高度成長、安保闘争、オイルショック、バブル経済、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、リーマンショック、東日本大震災――しかし、そうした社会的な側面はあくまで背景幕。核心は、名もなき人々の平凡な生活を描くことです。そうしたよしなしごとを、作者は作中人物の私的な視点やリリシズムを排したエピック(叙事物語)の文体で描き出します。

冒頭、世代の違う六人の男性が主人公となり、個々のストーリーは時間を行き来しながら語られます。この視点と時間の複雑な操作にこそ、作者の意図があるのでしょう。本作はストーリーの起点と中心点をあえて据えません。真っ直ぐ前へと進む定形のストーリーを形作ることで、ヒューマニズムなり愛国心なり反戦なりのメッセージを発してしまうのを、橋本治は拒否しているのではないでしょうか。

そもそもエピックというのは、「英雄を称える」という存在理由があり、ナショナリズムに陥りやすい。ところが、本作ほどそこから程遠い物語もありません。がんばってきた日本を褒めることもなく、ふつうの人々のささやかな生を讃えるドラマツルギーもありません。

そう、『草薙の剣』はなにものも讃えない、ナショナリズムから遁走するエピックなのです。

2 奥泉光『雪の階』中央公論新社

本作も史実に基づく歴史小説と言えます。二・二六事件前夜を題材にしていますが、さまざまに貌を変化させる多面的な小説です。男女の死の謎を解くミステリであり、二大戦間の政情を背景にした政治サスペンスであり、日本、ドイツ、ソ連をめぐるエスピオナージ(諜報もの)であり、そのうえ、胸キュンの恋愛小説でもあります。
しかしてその真の姿は? とある神話アーキタイプの現代的展開と言えるかもしれません。

幕開けは、日本が軍需景気にわく1935年(昭和10年)。そんな年の春、樹海で女子大生と陸軍将校の死体が発見され、情人同士の心中とみなされる。その友だちの女子学生が女性カメラマンと組んで探偵役となりますが、特権階級の廃絶を唱える急進派もいれば、権力の中枢にすり寄って甘い汁を吸おうする華族や資産家もいて、数多の人々の思惑が入り乱れる。ここにマッドな優生論者の存在が……。

作中、モダニズムの女性作家ヴァージニア・ウルフへの目配せがありますが、本作の文体はウルフもかくやという自在さ。ときには助詞ひとつで視点が切り替わり、語り手から作中人物へ、さらには幾人もの人物の間を「目」が行き来するスリル。「もし雪が球体ならばもっと規則正しく運動するだろう。だが雪の結晶は複数が絡まり合い、不揃いな鳥の形をなすがゆえに風を孕んで滑走するのだ」という言葉、これはまさにこの傑作を評する言葉に他なりません。