# マネジメント # 働き方改革

なぜ働き方改革をまじめにやるほど、社員はどんどんつらくなるのか

どこかで見た職場の風景
下田 直人 プロフィール

また別の会社では、経営陣からの残業時間削減の大号令のもと、各部署の管理職が部下の残業時間削減を徹底していった。

その結果、残業時間は減ったが、それに伴い、メンタル面も含めて調子が悪くなる人が増えたのだ。

この会社、いままでは納期が重なってしまう月は、80時間近くの残業があることもあったが、忙しくない月はあまり残業はなかった。この会社では、そもそもダラダラ残業する従業員はいなかった。

 

そんな中、労働時間の削減徹底は、職場の緊張感を高めた。もちろん、仕事に緊張感は必要だが、一定の限度を超え、いつもピリピリしているような職場になってしまった。今までは、程よい雑談や笑い声があった職場なのに、ほとんど声が聞こえなくなってしまった。

そうなると、従来は仕事上わからないことが出てきたときに、気軽に周囲に聞くことで問題を解決できたが、そのようなことができる雰囲気がなくなってしまったのだ。それにより、仕事を抱え込む人が増えてきてしまった。以前より残業時間が減ったにもかかわらず、以前より職場の雰囲気が悪くなっていった

手段を目的としてしまう

もちろん、日本全国すべての職場で働き方改革が失敗しているわけではないだろう。しかし上記のように、「働き方改革」という名のもと、実際には従業員がつらい思いをしている会社も多いのだ。

何が問題なのだろうか。

私は、手段の目的化が起きているのだと感じている。つまり、生産性の向上を目的として、そのための手段として「残業を削減しましょう」「有給休暇を取得しましょう」ということであったはずなのに、いつの間にか、残業を削減すること、有給休暇を取得することが目的となってしまっているのだ。結果として発想が非常に硬直的になっている。

そうすると、本来は当人にもクライアントにもメリットがあることなのに、「残業時間削減」という目的化されてしまった手段にとらわれて残業をしなかったり、「どのくらい削減したか」という数字達成が主題となってしまい、本人の意思に関係なく有給休暇を取らされたり、自社の目的のためだけに、下請け業者の仕事を押し付けたりということが出てくる。

組織は、大きくなればなるほど、本来の目的を忘れ、手段を目的として動いてしまいがちである。これが働き方改革の現場でも起きているのではないかと考える。

そもそもなんのための働き方改革であり、残業削減なのであろうか。それは、生活を豊かにすることであり、もっと大きな視点で見れば幸福に至るためだと思うのだ。豊かさや幸福という視点で考えると、長時間労働の是正がそれに直結するとは限らない。

もちろん、法律があるから法律を守ることは当然のこととして求められる。その一方で、会社の施策が従業員個々人の豊かさや幸福とどうつながっていくのかを明確にイメージして、社内ルールや働かせ方を作り込んでいかないと手段が目的となってしまう。

つまり、単に法律改正に合わせて、長時間労働の是正を目的としてしまうと、働き方改革を進めれば進めるほど、現場は息苦しくなってしまう。

そして、実際にそのようになっている現場が多い。

これは、「真面目な会社」ほど陥りやすい落とし穴だ。

真面目な会社ほど、法律が改正されたりすると、素直にそれに従って社内ルールを改めようとする。

「法律なんて無視しろ」と言っているのではない。ただ、その社内ルールの変更が与えるインパクトや影響をあまり考えず、法律の表面上だけを読み取って適合しようとする前に考えることがあると言いたいのだ。

そうした「真面目な会社」は、労働基準監督署から見れば、優良企業になるのだろうが、それが現場を混乱させることも多い。