19世紀西洋の日本ブーム=「ジャポニスム」が与えた意外な影響

「夢の国」が人々の美意識を変えた
宮崎 克己 プロフィール

したがって、ジャポニスムの終息とともにアートの流れがもとに戻ったわけではなかった。

そしてその流れは、モダンアートが普遍的・国際的になるとともに、今度は逆流して日本にも及んできた。それゆえ、現代の私たちが目にするもののいくつかは、時間的に遡ってたどっていくとジャポニスムにまでいたる。

 

モネやゴッホへのジャポニスムの影響においても、単に彼らの嗜好の範囲内のものとして終わったものもあれば、彼らを通してモダンアートに流れ込んだものもある。

モネの《ラ・ジャポネーズ》にふたたび戻るなら、彼は終生日本の美術工芸品を愛したが、この絵以降、二度とそれらを絵の中に描くことはなかったし、この絵が次の世代に大きな影響を与えたということもなかった。

だがこの絵は、この時期にモネが色彩への強い関心を示していたことを何よりも物語るものなのだ。1870年代半ば、モネら印象派は日本の浮世絵を触媒の一つとして、それ以前の絵画にはない鮮やかな色彩を実現した。

彼らの色彩の探究は、次の世代であるポスト印象派にも継承され、そしてさらに深められ、20世紀絵画へとつながった。《ラ・ジャポネーズ》以前にはモネを含めて誰も、これほど鮮烈な赤を画面に入れる者はいなかった。

その意味においては日本の着物の赤がモネのこの赤を導いたと言うことができる。この絵に、近代絵画の色彩の冒険への第一歩を感じ取ることは、やはり不可能ではない。

ジャポニスムにおいて始まり、現代にまで影響を及ぼしているその「成果」をめぐっては、この色彩の問題に加えて、空間、線の問題についても本書では考えたい。

本書は、本来もっと規模の大きな出版で語るべきテーマかもしれない。私は諸先輩によるジャポニスム研究から非常に多くを学んできたが、そうしたものをバランスよく取りまとめるのは苦手で、本書でもそれをめざすことをしない。

私はこの小さな本で、新たな視点からジャポニスムの全体像を簡潔にとらえ、またそれをできるだけ私自身が見つけた新鮮な材料を例として示しながら進めたいと思う。

(宮崎克己『ジャポニスム 流行としての日本』(講談社現代新書)より一部掲載)