「お正月太り」は人類に備わった「生きるパワーの証」だった

食欲のしくみを制して食べすぎを防ぐ!
佐藤 成美 プロフィール

技術の進化が目覚ましい、フレーバーのすごい力!

食欲をそそる、おいしさをもたらす要因には、味以外にも、においなど食べ物に由来するものはもちろん、食べる人の体調や食べるときの環境、食文化の背景など、多くのものがある。おいしさの要因には実に多くのものがあり、実際はかなり複雑な感覚といえるだろう。

そのなかでも、甘い香りの果物、香ばしい香りのトーストなど、香りは味や食感などとともにおいしさの重要な要素だ。ポテトチップスやスナック菓子につい手が伸びるのも、香りが大きく絡んでいるのだ。

【写真】香りは
  香りは味や食感などとともにおいしさの重要な要素 photo by gettyimages

そういった食品に重要な香りや風味を与えているのがフレーバー(食品香料)だ。フレーバーは、調理や加工で薄れた香りを補い、食材由来の好ましくない臭いをマスキングする役割を担う。さらに、食品に新たな風味を加えるために添加される場合も多い。

近年は技術の進歩によって、より本物に近い自然な香りのするフレーバーや、味と一体となっておいしさを生み出すフレーバーなどが開発されている。フレーバーは、食品の香りを再現するようにつくられており、味わう人の想像力をかきたて、食品のおいしさを引き立てている。
 
講演では、果汁含量の異なる2種類の果実飲料の官能試験を行い、香りがおいしさに及ぼす影響を評価してもらった。官能試験とは、人の感覚を使って物の特性を評価することで、試料の違いを評価することもあれば、好ましさを調査するために行われることもある。品評会や新商品の開発、市場テストなどさまざまな用途で使われる試験だ。

試料の果実飲料は、どこのスーパーやコンビニでも売られている、よく知られている2製品を用いた。白い紙コップに入れて並べられると製品の区別はつかない。果実味をどちらで強く感じるか、色や味、香りなどどちらが好ましいかを評価してもらった。

  2つの飲料の果実味、色や味、香りの比較 こちらから拡大表示

実際は、Aが果汁25%、Bが果汁40%であった。だが結果は、色や香りの好ましさについては大差がなく、果実味の感じ方にも差がなかった。果実味や味の好ましさを感じる人の数は、果汁の濃度が低い方にむしろ多かったことが興味深い。

また、フレーバーの加えていない果実飲料を25%に薄めたものも試してもらうと、果実味はあまり感じられないという人がほとんどだった。

香りは味覚を操っているといっても過言ではないほど、おいしさに大きな影響を及ぼしていることを実感することができた。

食べ過ぎをコントロールできる!? 食行動のカギを握る「レプチン」というホルモン

生命を維持するためには、エネルギー源になる栄養素を摂取しなければならず、そのための食行動をコントロールしているのが食欲である。

脳のなかの間脳にある視床下部には、摂食中枢や満腹中枢があり、摂食を調節している。ここは自律神経系の中枢で、体温や睡眠など、生命維持に重要な機能を制御しているところだ。

【図】脳と間脳
  脳の間脳 anatomical schematic by gettyimages

脳にはホルモンなどを介して体内の栄養状態が伝えられ、栄養素が不足していれば、脳の摂食中枢が作用し、空腹を感じる。一方、十分に栄養素が摂取できれば満腹感を感じ、食べるのをやめる。

体重は摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスの調節の情報で、体重を一定に保つことで、エネルギーのバランスを維持することができる。もし、食欲によるコントロールがなかったら、まったくお腹がすかず、やせ細っていくか、食べても食べても満腹にならず、体重が増え続けることになる。

肥満や糖尿病の病態を解明する研究には、食欲を抑制できず体重や体脂肪が増加した肥満マウスが使われている。そのマウスでは「レプチン」という食欲を抑制するホルモンがはたらかないようになっている。

正常マウスに比べて明らかに巨大な肥満マウスの様子を見ると、普段当たり前に感じている満腹や空腹が、生体にとって重要な意味があることを認識させられる。また、肥満状態の人を調べると、摂食は必ずしも抑制されておらず、レプチンが効きにくくなるという現象が起きていることが知られる。