5億年前から生きている「不思議な生物」が教えてくれること

謎の生物「放散虫」が起こした革命

この不思議な形はいったいなに?

まるで仏塔のようなつり鐘状の形や、足の付いた香炉のような美しい形の写真を見たのは、数ヵ月前、我ら探検隊が「鳥羽の地質図」で取材にうかがったときだった(「恐竜化石はなぜ鳥羽で見つかったのか」)。幾何学模様のように規則正しい骨組みで成り立っているものが「放散虫」という生物の化石と聞いて驚いた。しかもそれが地質研究の年代を決定づけるのに役立っているのだという。

【写真】放散虫の顕微鏡写真
  放散虫の顕微鏡写真。拡大画像はこちら

今回はこの「放散虫」化石を探検に向かおうということで、訪ねたのは、産総研地質情報研究部門海洋地質研究グループの主任研究員、板木拓也さんだ。大学院時代は探検部に所属したという板木さんは、人なつこい笑顔で研究室に迎え入れてくれた。

【写真】板木さん
  板木さん

掌に載るぐらいの球体の模型や、シルバーアクセサリーになった放散虫を前に、板木さんの話をうかがった。

5億年前から現在まで生き残っている驚異の生物

放散虫とは、なんでしょう。単刀直入に訊いた。

「虫と付いていますが、虫ではありません。海洋性動物プランクトンの仲間です。英語名はレディオラリア(Radiolaria)で、ガラス状の硬い殻を持つ単細胞の原生生物です。殻の隙間から、仮足(かそく)と呼ばれる触手のような細い足のようなものを出して、波間を揺れています」

「仮足が放射状に伸びている姿形から、レディオ(=ラジオ=放射)というわけです。その仮足にくっついた植物プランクトンや有機物などを補食して生きています。現在生きているものだけで800種類ぐらいいると言われています」

今も生きているんですね。

「世界中の海に漂っていますよ。淡水や沿岸域では見つかりませんが、海洋には無数にいます。海面に近いところから5000mの深海まで、5億数千万年前から生き残っています」

5億年以上?

「カンブリア爆発という言葉は聞いたことありませんか。カンブリア紀(約5億4100万年前~4億8500万年前)は生物の種類が一気に増えた時代で、放散虫もその時代に生まれています」

そうすると、まさに生きた化石ですね。でも海を漂う姿を見たことはありません。水族館にも展示されていませんよね。

「顕微鏡を通さないと見えませんからね。大きさは数十ミクロンから数百ミクロン。だいたい1mmの10分の1以下です。目の細かい専用の網で海水を掬(すく)って採れば、簡単に見つけることができます。とにかく数限りなくいるんです。

食物連鎖のピラミッドで言うと、下の方で生物界を支えているんですが、数が多いので、餌として食べられなかった個体が死んで、海の底にどんどん溜まっていく。それが化石となって残っているというわけです。何しろ、殻がガラスでできているので、化石として残りやすいのです」

なるほど。化石がたくさん出るから地質の年代測定に役立つというわけですね。でも、見えないものがどうしてこんなに役立つことになったのでしょう。