知らない間に、あなたが「見知らぬ空き家の所有者」になる恐れアリ

相続放棄にひそむこんなリスク
野澤 千絵 プロフィール

逆に、国庫に帰属された売却困難な負動産が増えると、その維持管理費は税金から支出することになり、公的なコストの増大として私たちに跳ね返ってくることになる。

相続放棄をされた負動産の場合には、買い手がつく可能性が低いため、予納金を出してまで、わざわざ相続財産管理人の選任申し立てをするケースは非常に少ない。

その結果、相続人全員から放棄された不動産は誰も手を出せない塩漬け状態のまま、地域の中で空き家として荒廃していくことになる。今後、売るに売れないからと、負動産の相続放棄が続出してしまうと、まちの環境やその存続自体を崩しかねない「サイレントキラー」(忍び寄る殺し屋)となる危険性もはらんでいる

あなたのまちにも「サイレントキラー」が(photo by iStock)

いつの間にか、見知らぬ空き家の所有者に

相続放棄は、自分だけの問題では終わらない。

相続放棄をした人は、「初めから相続人とならなかったもの」となるため、自分が相続放棄をするだけでは終わらず、その相続権は民法に基づき、親の兄弟姉妹やその子供たちへとまわりまわっていく。

実際に、親戚が相続放棄をしたことを何も知らされておらず、いつの間にか、見知らぬ空き家の所有者になっており(*2)、ある日突然、自治体から見知らぬ空き家の適正管理のお願いの連絡がきて初めて、自分が遠い親戚が持っていた空き家の所有者になっている事実を知らされるというケースも発生している。

大量相続時代を迎える中で、残念ながら、負動産の相続放棄問題は、私たち誰もが知っておくべき社会人の必修科目であると言っても過言ではない

とはいえ、負動産だからと相続放棄が増えるという事態は、個人としても、社会としても、望ましいとは言えず、根本的な解決へと向かうものではない。これ以上、私たちが相続放棄を選択しなくてもよい社会にしていくことが求められる。

つまり、負動産と揶揄するだけではなく、きちんと売れる・貸せる不動産となる新たな活用法=「使い道」を見出し、それがこれまでにないまちの価値をつくっていくことが必要になっている。

そのためにも、私たち一人ひとりが住まいを「終活」することが重要な鍵となるのだ。

相続が発生する前から、所有者やその相続予定者が、住まいに関わる様々な情報を整理・共有し、相続発生後の選択肢を考え、そのために安心して相談できる人的なつながりをつくっておくなど、住まいを円滑に「責任ある所有者・利用者」へ引き継げるようにすること。

それが住まいを「終活」することである。

マンションにも相続放棄問題(photo by iStock)

住まいを「終活」するメリット

とはいえ、相続が発生してからゆっくり考えればよいのでは? と思われる方も多いだろう。なぜ、相続が発生した「後」ではなく「前」に、わざわざ住まいを終活する必要があるのだろうか?

それは、相続が発生した「後」では、老いた家を売買するために必要となる条件を整理するために時間がかかり、せっかくの売買のチャンスを逃しかねないケースがあるからだ。

特に、老いた家を売買するための条件の整理は、所有者や関係者(他の相続人等)がまだ元気なうちに取り組む方がスムーズに進められる場合が多い。

また、実家と離れて暮らす相続予定者よりも、協議すべき相手(親戚や近隣住民等)との人的なネットワークが途切れていない現在の居住者自身が対応する方が解決しやすいケースも多い。

例えば、実家の登記簿の名義人を相続時に登記を変更せず先代のまま放置していたとしよう。もし、その実家に住む親が他界すると、その実家の所有者の数はさらに増えることになる。

そのため、実家を売買しようという場合には、司法書士や弁護士に依頼し、過去にさかのぼって全ての相続人を探索・確定させ、その全員の合意を取り付けなければ売却できないという事態になる。

特に、所有者となっている人の中に、他界されて更に相続人が増え、探索すべき相続人が多数になっていたり、認知症を発症し意思判断ができなくなった人、海外に居住している人、所在不明の人などがいた場合、登記の変更だけで膨大な手間や時間がかかる。