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「本は日用品。」カリスマ書店員が語る、効果的な本の売り方

気まぐれな消費者に買ってもらう

日用品へのこだわり、ありますか?

新井家の台ぶきんは、いつも蛍光ピンクだった。

水に浸すと桜でんぶのように輝くそれは、卓上にこぼれた醬油を拭っても、サッと洗えば元通りになる特殊な化学繊維でできていた。ぎゅっと絞ってシンクに引っかけておけば、翌朝にはすっかり乾いている。

母は毎日、必ずそれで食卓を拭い、いつも穴が開くまで使い倒した。商品名は、何だっけ。

一人暮らしを始めて、全ての日用品を自分で買うようになり、気付いたことがある。

私という人間には、ほとんどこだわりがない。

ボディソープも洗濯用洗剤もトイレットペーパーも、リピートしているものもあるが、ほとんど正確な銘柄を言えない。雨が降っていればコンビニにあるものの中から選ぶし、ドラッグストアで安売りしていれば、そっちの商品に乗り換える。

つまり私にとって日用品とは、どこで買ってもよく、大体目的を果たせればメーカーにはこだわらず、ちょっとした気分か、お得さで選ぶくらいのものなのである。

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必要になれば都度買い足す日常の行為に、もはや特別な興奮はない。ただ、差し当たり必要でなくてもつい買ってしまうほどには、楽しい行為でもあるのだろう。

日用品を買うのは、主に近所のドラッグストアである。先日ゴミ袋を買いに行ったら、携帯サイズの「シュミテクト」が付いた、レギュラーサイズの「シュミテクト」が、何も付いていない「シュミテクト」と同じ値段で売っていた。

新発売の歯磨き粉ではないが、おまけ付きは数量限定らしく、使ったことがない人に向けたPOPが付いている。まずはお得感で手に取ってもらい、リピーターを増やす目的のお試しキャンペーンなのだろう。

「お試し」のつもりが、つい…

確かに日用品には、いったん買うと同じものを買い続ける、という面もあるのだった。

私が働く本屋でも、それに似た販促をする商品がある。「週刊○○」といった、買い集めていくとDVDが全巻揃ったり、ロボットが出来上がったりする、いわゆるパートワークと呼ばれる雑誌だ。

創刊時にはテレビや新聞で大々的に広告を打ち、冗談みたいに安い価格をアピールする。ただしそれは創刊号のみで、以降は決して安くならない。それを知っていてもつい、お試し気分で手を出すと、その後もダラダラと買い続けてしまい、結果的には膨大な冊数が本棚を占拠することになる。

そういえば私も、毎回一人の作曲家を特集したクラシックCD付きのパートワークを、日用品のように気軽に習慣買いしてしまい、うっかり全65巻コンプリートしてしまったことがあった。

欲しかったので後悔はしていないが、創刊記念で第1号にCDがもう1枚付いていなければ、あるいは1冊も買わなかったかもしれない。

最初から65巻セットなら、まず間違いなく買わなかっただろう。それは私の経済感覚においては、日用品の枠を超えている。