家族に突然、介護が必要になったとき、誰が担うかでもめるケースが多いようです。誰かが中心となって介護する家もあれば、全員でうまく分担する家など、落としどころはさまざまあるでしょう。しかし、どちらの場合でも「言ってはいけないこと」があるのを、あなたはご存じですか?
(記事中の写真は、いずれもイメージです)
内閣府が5000人を対象に実施した「介護保険制度に関する世論調査」(平成22年)によると、「家族が老後に寝たきりや認知症になるかもしれない」と不安に思うことがある人は 77.6%にのぼるという。
具体的に何に困ると思うか(もしくは、もう介護が始まっている場合は、何に困っているか)という質問に対して多かったのが、
だった。かなり多くの人が、「介護は困難で、大変なこと」と思っているのがわかる。
誰だって、つらいこと・苦しいことは引き受けたくないのが本音だ。そして自分が負担していると、他人にも負担させたいと思ってしまう。だから「親の介護を押しつけ合う」などということが起こる。
ある4人きょうだいの話だ。この家族の場合、父親はすでに他界。残った母親の面倒を誰がどう看るかで、姉3人(長女、次女、三女)と一番下の弟が分裂することとなった。
弟は結婚して遠方に住んでいたため、母親の介護に当たれるのは姉たちである。姉3人は相談のうえ、母を会社員の三女(未婚)の家に同居させ、次のように母の介護にあたっていた。
加えて毎月1回、ケアマネジャー(介護のプランニングをする専門職。略称「ケアマネ」)を迎えて介護の方針を相談する"家族会議"を開いていた。
ところが、弟は日々の介助は姉任せで、家族会議にすらまったく姿を見せなかった。 姉たちは、積極的に手伝おうとしない弟夫婦が面白くない。そこで弟の家に母を送り、短期間だけでも母の面倒を嫁に看させたいと考えた。
担当のケアマネジャーは、 弟の住まいが遠方にあることからこう反対した。
「環境が変わるとお母さんが混乱されますよ。それよりも地元にある介護施設のショートステイを利用してはどうですか?」
ショートステイとは、宿泊付きでお年寄りを預かってくれる施設サービスのことだ。 遠方への移住など、生活環境の大きな変化はお年寄りを一気に衰えさせる。これを「リロケーションダメージ」というが、ケアマネはそれを知っていたから、ショートステイをすすめたのである。
ところが、それでは姉たちの気が済まなかった。
弟夫婦が「母を預かってほしい」という姉たちの提案をすんなり受け入れたことから、母は弟宅で1週間過ごすこととなったが、それが裏目に出る。景色がまったく違う知らない土地で1週間暮らした母は、常にボヤッとした状態になって口数が減り、様子が変わってしまったという。
ようやく姉たちは失敗に気づき、深く後悔。
「やっぱりケアマネさんが言うようにショートステイを使うほうがいいね。だれが介護するかより、母本人にとって何がいいかを考えなきゃ」
こう思い直すこととなった。最後にはケアマネの手配で、 納得のいく特養に入所できたそうだ。